保護7年目の犬も 「命の期限」を設けない京都動物愛護センターの取り組み
今春、京都の桂川河川敷の「野犬問題」が度々、報道されました。具体的な数字は見聞きしなかったので、自然繁殖によって増え続けているのかと心配したのですが、管轄する京都動物愛護センターによれば、「平成30年度に42頭を保護し、現在は10~20頭程度ではないか」とのこと。「数が増えているのではなく、防災のための護岸工事などで犬が暮らせるエリアが狭くなり、人間の生活空間に近い場所、人目につく場所の犬の密度が上がったことで、心配の声が挙がったのだと思います」。そう説明してくれたのは、獣医師でもある同センターの河野誠さんです。
もちろん、放置していい問題ではなく、現在も捕獲・保護に向けた努力がなされていますし、昨年度、保護された犬の中には譲渡対象となり、「家族」ができるのを待っている子もいます。「保護」よりも「捕獲」のイメージが強く、「捕まったら殺されるのではないか」との心配から食べ物を与えてしまう人もいるようですが、それは大きな間違い。いつ食べ物や水にありつけるか分からない状況よりも、愛護センターに保護されたほうが、人も犬も幸せになれるのです。
そもそも、京都動物愛護センターは動物を「殺処分」するための施設ではありません。保護された時点で瀕死の状態だったり、回復の見込みがなく生きていることが動物に苦痛を強いる場合などは、やむなく「安楽死」が選択されることもありますが、センターに収容されて7年になる犬もいるのです。保護された動物たちに「命の期限」は設けられていません。
ただ、そうしたことが一般に広く知られていないのも事実。同センターでは今年度の強化ポイントの一つとして、「センターの認知度アップ」を掲げています。
「小学校での出張授業など、動物愛護についての啓発活動はこれまでもしてきましたが、ペットに関する小規模相談会の実施など、もっともっと外に飛び出していこうと考えています。また、センターの“見学ツアー”も企画しています。ここは交通の便が良く(近鉄十条駅から徒歩5分)、上鳥羽公園の中ということもあって、ふらっと立ち寄ってくださる方も結構いるのですが、逆に『愛護センターってどんなところだろう?』と思いながら敷居が高いと感じている方もいる。子供さんも含め、気軽に来ていただけるようにツアーを始められればと思っています」(河野さん)
実現に向けて大きな戦力となるのが“ボランティアスタッフ”の皆さんです。同センターではボランティア事業に力を入れており、登録から3年間活動すると“卒業”するシステム。卒業生たちはセンターのサテライト的な立場で、それぞれの地元で啓発活動などに取り組んでいます。そのボランティアスタッフが見学ツアーのプログラムを考案中で、実際にツアーが始まれば案内役も務める予定です。
センターの特徴は他にもあります。一つは「京都方式」の導入です。これは「犬の収容から譲渡に至る過程で、しつけインストラクターなど専門家のノウハウや広範なネットワークを大胆に活用し、その監修の下、さまざまな取り組みを行う」というもの。これにより、吠えや噛み癖などの問題行動を修正して譲渡につなげられるようになったり、譲渡後も家まで出向いて相談に乗るなど、アフターフォローの充実を図れるようになりました。譲渡条件に「京都府域に居住」とあるのは、このアフターフォローのためでもあります。
また、京都市獣医師会との連携も特徴の一つ。併設する「夜間動物救急センター」は一般に開放されていますが、日中は収容動物へのワクチン接種や治療が行われています。京都市獣医師会による5000万円規模の寄付により、レントゲンや超音波など設備も充実。保護犬・保護猫も高度な医療を享受できるというわけです。
「人と動物とが共生できる、うるおいのある豊かな社会」を理想とする京都動物愛護センター。ドッグランやトリミングルームもあり(有料)、かつての「保健所」のイメージとはかなり違います。興味がある方は一度、足を運んでみてはいかがでしょうか。(まいどなニュース特約・岡部充代)