阪大名物猫「斎藤さん」の訃報ツイート…悲しみに暮れる学生や卒業生が続出した理由

 6月10日の午後、ツイッターにあるつぶやきが投稿された。

 『大講義室前でいつも私たち阪大生を見守ってくれていた斎藤さんが、先日お亡くなりになりました。突然の訃報に未だ信じ難い気持ちです。』

 投稿からわずかで数千もの「いいね!」がつき「もう大講義室前に行っても斎藤さんはいないのか」「喪失感からレポートが手につかない」など、悲しみに暮れる学生や卒業生たちが続出。彼らによる大量のツイートで、一時「斎藤さん」が大阪のトレンド入りをしたほど。そこまで学生に慕われた斎藤さんとはいったい何者なのか。教員?職員?それとも食堂のお母さん?いえ、この「斎藤さん」、実は大阪大学で暮らしていた真っ黒な野良猫。その人となり、ならぬ「猫となり」を探るべく、大阪府豊中市にある大阪大学豊中キャンパスを訪ねた。

 ツイートの投稿主は、阪大のサークル「まちかねこ調査隊」(https://twitter.com/s_machikaneko)。大学内に暮らす野良猫を、キャンパスのある待兼山(まちかねやま)にかけて「まちかねこ」と呼び、その生態を追いかけている。

 現在25匹ほどいるとみられる「まちかねこ」の中でも、特別な存在だったのが斎藤さん。警戒心の強い猫たちの中で唯一、人に触られても嫌がらなかったという。学内で最も広い大講義室周辺を住処とし、人通りの多い通路でも気ままに寝転び、雨の日には教室内で過ごす-。そんなマイペースで穏やかな性格の斎藤さんは、いつしか阪大生なら知らぬ人はいない名物猫となった。

 斎藤さんは驚くことに、2000年には大学にいたとも言われる長寿猫。もはやその生い立ちを正確に知る学生はおらず、少しミステリアスな部分にひかれるファンも多い。元は飼い猫だったという説や、学生寮で寮生にいじめられてキャンパスへ流れ着いたという説、実は今の斎藤さんは2代目であるという説まで飛び交う。「斎藤さん」という不思議な名前については、飼い主や寮の管理人など、斎藤さんの世話をしていた人の名前が由来になっているという共通項があるとのこと。そのあたりも少し都市伝説めいている。

 20年近く大学内で生きてきた斎藤さん。「まちかねこ調査隊」のメンバーも最近はその姿に老いを感じていたそう。GW明けごろから見かけることもなくなっていたが、数日前、ある方から花に包まれた安らかな斎藤さんの写真とともに、亡くなったことを知らせるメールが届いたという。衰弱している斎藤さんを連れ帰り、最期まで世話をされた、その方の名前が「斎藤さん」かどうかは定かではないが、黒猫の斎藤さんはその性格と同じく穏やかに生涯を終えたようだ。

 冒頭のツイートののち、「まちかねこ調査隊」隊員のみなさんのもとには「ほんとに亡くなったの?」「いいやつだったよな……」といった友人からのLINEが相次いでいる。また、サークルの公式ツイッターアカウント経由では“今後なにか斎藤さんを偲ぶイベントはないのか?”といった問い合わせも寄せられているという。

 「OBも含め多くの阪大生による追悼のツイートには斎藤さんの写真を添付したものも多く見られます。まだ何も決まってはいませんが、それぞれのお気に入りの写真を集めて、アルバムを作るか展示をするのもいいかな」。そう話すのは現在2回生の隊員わいゆーさん。同じく2回生のOさんは「とにかく今はいろいろと対応に忙しく、まだ斎藤さんがいなくなった実感がわかなくて」とも。「斎藤さんが阪大にいたということを何か形に残せればとは考えています」と話してくれた。

 「まちかねこ調査隊」のメンバーと別れたのち、斎藤さんがいつも過ごしていたという大講義室前へ行ってみると、学生さんによるものなのか、教室の入口にはそっと花が手向けられていた。

 大講義室のすぐそばにあるスクールバス乗り場の整理員の男性にも斎藤さんのことを尋ねてみた。整理員やバスの運転手さんも斎藤さんのことはたいへんかわいがっていたそう。「ぼくらはクロちゃんと呼んでたんやけどな」。そう言いながら、スマホにたくさんストックされた斎藤さんの写真を見せてくれた。「卒業していった学生さんもみんな戻ってきたらあの猫に会いに行ってた。あの子は学生さんの癒しやったからなあ」。

 大阪大学で青春を過ごした人たちの心に残る斎藤さんとの思い出。訃報を告げるツイートに残された数多くのコメントやアクションは、そんな斎藤さんへの感謝の気持ちなのかもしれない。(まいどなニュース特約・たまのみか)

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