発症すると、ほぼ100%死亡…ひと昔の病気ではない狂犬病 感染・発病を防ぐには

ワクチンを接種していない場合、安易に犬に近づいたりなでたりしないように注意したい(Aungsumol/stock.adobe.com)
ワクチンを接種していない場合、安易に犬に近づいたりなでたりしないように注意したい(weerachaiphoto/stock.adobe.com)
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 2019年5月、フィリピンに旅行に来ていたノルウェー人の看護師が、狂犬病を発病して亡くなりました。彼女は、道端にいた野良犬の子犬を助けようと滞在先のホテルに連れ帰ったが、じゃれる子犬に指を噛まれ、狂犬病に感染してしまったのです。

 私たち日本人にとっても他人事ではありません。感染症に詳しい大阪の太融寺町谷口医院の谷口恭院長に話を聞きました。

■日本でもあっという間に蔓延する可能性のある狂犬病

 -狂犬病は、どのように感染するのでしょうか。

 谷口恭院長(以下、谷口):狂犬病というと、犬だけが感染しているように思われますが、人も含めすべての哺乳類が感染します。アジアでは、主に犬に噛まれたり、かじられたりした時に、唾液に含まれるウイルスが体内に侵入して感染します。仮に感染している人と接触しても、人から人に感染することはありません。犬以外ですと、猫や猿、リスやキツネ、アライグマにも注意が必要です。洞窟に住むコウモリに尿をかけられて感染するケースも考えられます。

 -日本国内でも感染者や発病者はいるのでしょうか。

 谷口:日本では1950年に狂犬病予防法が施行され、犬にワクチン接種が義務付けられて以来、人の発病者は確認されていません(海外で感染、帰国後発病した人を除く)。狂犬病のない国というのは、小さな島国などを除けば、日本、イギリス、オセアニアくらいであり、これら以外の地域では狂犬病のリスクを考えなければなりません。WHOの調査では、2004年に狂犬病で死亡した人は55,000人にものぼります。うち、アジア地域で死亡した人は31,000人、アフリカ地域では24,000人です。

 日本でも海外渡航者が増加し、交流が盛んになっているので、いつ狂犬病ウイルスが侵入してもおかしくない状況です。蔓延するのを食い止めるため、狂犬病ワクチンは必ず接種しなければなりません。「うちの子は大丈夫」では済まされないのです。

■感染すると、ほぼ100%死亡する

 -狂犬病を発症すると、どんな症状が起こるのでしょうか。

 谷口:潜伏期間は1~3ヵ月くらいで、初期症状は、食欲不振や発熱、咬まれた部位の痛みなどですが、進行すると不安感や興奮、幻覚、麻痺、精神錯乱などが起こります。なかでも「恐水症(きょうすいしょう)」は狂犬病特有の症状で、生きているので水が飲みたくなるのですが、水を飲むと咽喉頭や全身の痙縮が起きて苦痛を感じるため水が飲めなくなります。狂犬病にかかった日本人の4歳の男児が、コップの水を飲んだ途端に興奮を抑制できなくなり、発狂して死にいたるビデオを見たことがありますが、その苦しみたるや相当のものです。「恐風症(きょうふうしょう)」も狂犬病の症状のひとつです。神経症状を来した後、昏睡状態に陥り、呼吸障害が起こって死亡します。死亡率は、ほぼ100%です。

■咬まれてもあきらめない

 -万が一、狂犬病と思われる犬や動物に咬まれたり、かじられたりしたらどうしたらいいのでしょうか。

 谷口:ただちに現地医療機関を訪れ、狂犬病ワクチンを接種してください。これを「暴露後予防」と言います。暴露後予防をすれば、ウイルスが脳に到達する前であれば、事後にワクチン接種しても助かる見込みがあります。ただ、狂犬病ワクチンは複数回接種しなければなりません。どれくらいの期間に何回接種するかにはいくつかの考え方があります。最も大切なのは(後述する「曝露前予防」をしていたとしても)アクシデントがあれば可及的速やかに現地の医療機関を受診することです。帰国予定があり追加接種を日本でおこなう場合は、現地の医師に紹介状を書いてもらうことが必要です。また、リスクの高い地域に渡航する場合は、出発前のワクチン接種(曝露前予防)も検討するのがいいでしょう。

 -海外に渡航する前にワクチンを接種したほうがいいのでしょうか。

 谷口:ワクチンを接種できるといいのですが、供給量不足のため、全員が接種できないのが現状です。流行地への旅行者や駐在者、出張者、研究者、獣医師など、優先順位を考慮した上で接種することになります。ただ、2019年の夏からは、海外式のワクチンを輸入して使えるようになるのではないかとの情報もあります。

 ワクチンを接種していない場合、安易に犬に近づいたりなでたりしない、僻地や洞窟では、猿やコウモリなどの動物にも注意する必要があります。(まいどなニュース特約・渡辺陽)

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