ベビーカー論争が背景…大江戸線で「子育て車両」7月運行へ 本来のテーマとは
電車内などで起きる乗客とベビーカーを押す人とのトラブルが社会問題化している。いわゆる“ベビーカー論争”だ。その熾烈(しれつ)な交通事情の最前線である東京都は、都営地下鉄大江戸線の一部車両に「子育て応援スペース」を設け、7月下旬から運行を始めることが決まった。改めて乗客の立場で大江戸線車両の実態を確かめ、東京都交通局に今回の意図や今後の見通しなどを聞いた。
「子育て応援スペース」は3つの新型車両で導入予定。8両すべてにベビーカーや車いす利用者向けのフリースペースを設け、このうち2両に「子育て応援スペース」を設ける。その壁面にはアニメ「きかんしゃトーマス」のキャラクターで装飾されるという。
大江戸線の車両は現在も8両編成で、ベビーカーや車いす利用者に配慮した「フリーペース」は設けられている。日頃、何気なく乗車している記者だが、その意識を持って、利用客の少ない時間帯に全車両を確認した。
8両のうち4号車と5号車の一角に座席を置かないフリースペースがあり、車いすとベビーカーを示す青色のマークが表示されている。いずれも1台が“駐車”できるスペース。1メートル弱の高さに手すりがある。車いすに乗ったつもりでしゃがむと、ちょうど手にしやすい位置だ。その上部の窓枠にかかる手すりは押す人が使いやすい位置にある。対策はこうして取られているわけだが、さらに7月からどのような変化が期待されるのか。
都交通局の担当者はデイリースポーツの取材に対して、「満員の車両でお子様が泣いていたとしても、そこで『この車両は子育て応援スペースなんだな』と多少なりとも理解していただければありがたいです。お子様の泣き声が『うるさい』と思われる方は、他の車両に移っていただけければ」と説明した。
では、女性専用車両のように、実質的にファミリー(子育て)専用車両になるのだろうか。担当者は「専用ではありません。ただ、一般のお客様とベビーカーなどのお客様が共存するため、少しでもその意識を持っていただければということです」と理解を求めた。
SNSでは、一部のベビーカー使用者のふるまいに“特権的”な意識を感じて批判する人たちから「ベビーカー様」といった言葉まで生まれた。一方で「子供は社会全体で育てるもの」という意識も高まってきている。
担当者は「朝の通勤ラッシュの時間帯にベビーカーのお客様が乗ってくる際、『他のお客様は降りてください』とは言いづらいものがありますし…」と背景を語りながら「まずは他のお客様への機運を高めるために試験的に導入します。『子育て応援スペース』としますが、小さいお子さんだけではなく、車いすを利用する方や高齢者の方にも使っていただけます」と訴えた。
つまり、ベビーカーを“特別扱い”するのではなく、多様性との“共存”がテーマなのだ。「きかんしゃトーマス」の壁画前、子供だけでなく、車いす利用者や高齢者が共存することが本来の理想。ベビーカーを押す側にもその意識が浸透するか。試験的な導入の際には、現場を遠目に確認してみたいと思う。(デイリースポーツ・北村泰介)