「傷だらけの天使ビル」が8月解体へ 初放送から45年…萩原健一さん死去の年に消滅
時代を超えてコアなファンに愛されてきた名作ドラマ「傷だらけの天使」(日本テレビ系、1974年10月~75年3月放送)の舞台となった東京・代々木のビルが今夏から解体されることが決まった。建物の一角で営業を続けてきた居酒屋は27日の深夜12時をもって営業を終了し、28日に撤収。くしくも主演の“ショーケン”こと萩原健一さん(享年68)が亡くなった年、ゆかりの“聖地”もこの世から消滅すると知った人たちが店に集まり、名残りを惜しんだ。
「傷だらけの天使」では、萩原さん演じる修(オサム)と、当時22歳だった水谷豊(66)扮する亨(アキラ)が国鉄の線路沿いに建つ「エンジェルビル」屋上のペントハウスに住んでいる設定。電車音と共に目覚めた修がゴーグルを額へと上げたまま、新聞紙をエプロン代わりに、トマト、クラッカー、ソーセージ、コンビーフをかじり、牛乳瓶のふたを口で開けるオープニングシーンの部屋…。屋上に備え付けたドラム缶の風呂…。彼らの生活が染みついていた。
このビルはJRと都営地下鉄の代々木駅改札を出て徒歩1分弱の通りに面した地上8階、地下1階の「代々木会館」。延べ床面積は18万6888平方メートル。解体前に営業していた店舗は3階の中国関連書店と数年前にオープンした1階外面の居酒屋のみ。それでも、昭和から平成を経て令和になっても、地下と4階から屋上までが“廃墟”となった状態のままで生き延びていた。
45年前の放送時点で、既に年季が入っていたビルだった印象から、逆に、まだ解体されていないことに驚く人も多かった。このまま東京五輪を迎えるのかという雰囲気もあったが、一転して、6月24日に「解体工事のお知らせ」という標識が、「渋谷区建築物の解体工事計画の事前周知に関する条例第6条第2項の規定」によって建物に設置。ついに、その歴史に終止符を打つことが公になった。
解体工事は8月1日から来年1月31日までの予定。居酒屋と書店は6月末で閉店し、7月は工事に向けた準備期間になりそうだ。
最後の夜、店内は遅くまで満席状態が続き、中に入れない人たちが外で待った。記者も含めた待機組に気さくに声をかけながら、自作だという「傷だらけの天使」の缶バッジをプレゼントしてくれた男性に話を聞いた。
「このビルの近くに住みたくて代々木にいる」という47歳の男性は30年前の高校生時代にビデオで“傷天”にはまった後追い世代。「20年前までは地下にパチンコ店があった。こだわりのある居酒屋も。4階には予備校の教室があり、さらに上には住居もあって。正月はなぜか(ビル内の扉が)開いていて、屋上に出られた…」と、思い出を語った。
最終回、建設会社の主任(森本レオ)が修に対し、解体工事のために立ち退きを伝える場面があるのだが、店に集った傷天ファンは「あのシーンがついに現実になってしまった。レオが本当に来た」としんみり。もちろん、これも時代の流れだと重々承知だが、思い入れが強いほど寂しさは募る。それだけの力があるドラマだったのだと改めて実感した。(デイリースポーツ・北村泰介)