小学校卒業式で袴は禁止?…神戸市教委からの突然の「お願い」に保護者ら動揺
神戸市教育委員会が市内の小学5、6年生の保護者に配布した文書が、波紋を呼んでいる。「卒業式における服装について」と題されたその文書で、市教委は、袴をはじめとする「華美」な服装が孕む問題点を列挙。体調面、安全面、(式の)運営面で「問題が実際に生じてい」るとして、「問題点と卒業式の趣旨を十分にご理解いただき、よりふさわしい(適した)服装」での出席を呼びかけているのだ。「要するに袴は禁止ってこと?」「結局どうしてほしいの?」。保護者の間では憶測が飛び交い、戸惑いが広がる。
市教委が保護者への「お願い」と位置づける6月28日付のその文書は、ここ数年、小学校の卒業式で袴を着用する児童が増えてきたことを受け、普段着慣れないような「華美」な服装は、卒業式に「望ましくない」と明記。ただし、文書の中では「禁止」「自粛」という言葉の使用は慎重に避け、どんな服装を選ぶかは「あくまでも児童や保護者の判断に任せる」というスタンスを示している。
市教委学校教育課は「こちらとしては、禁止はできません。ただ、袴などの着用が増えたことで、現場では様々な問題が起きています。それを理解していただいた上で、改めてどういう服装が望ましいかを考えてもらいたい」と話す。
では、一体どういう「問題」が生じているのか。文書によると、「早朝からの着付けや長時間にわたり体を締め付けられることにより、気分が悪くなり、式中にしゃがみこんだり途中で退席せざるを得なくなったりする児童がいた」「履き慣れない靴のため(略)つまずいたり転倒したりする児童がいた」「和装など着慣れない服装のため動きにくく、また、着崩れすることにより、準備していた学習の成果(姿勢、歩き方、所作等)が発揮できなかった」などなど。同課は「市内の小学校にアンケートしたところ、3割ほどの学校からそういう報告があった」として、「卒業式は児童にとって小学校最後の『授業』。教育委員会としては、式に支障をきたすことにつながりかねない服装は望ましくないという考えです」と強調する。
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だが、困ったのが6年生の保護者たちだ。実際に娘が袴を着る予定の女性は「一言で言うなら、『遅い!』です。周りではもう買ってしまった子もいますし、うちもレンタルと前撮りの予約をしています。前の年の卒業式が終わった時点で予約する人もいるのに、6月末というこのタイミングでの通知は遅いとしか言いようがありません」と憤る。
この点は市教委も自覚しており、担当者は「各校への調査を進める中で、結果的にこの時期になってしまった。ご迷惑をおかけしたことについては、申し訳ないと思っています」と話す。一方で、あくまでも「禁止」を呼びかけるものではなく、すでに購入やレンタルの予約をした袴などで出席することについては、本年度は特に問題視しない方針という。
ただ、配慮に配慮を重ねた文書の表現は、結果的に多くの保護者にとっては「何が言いたいのか分からない」ものになってしまった。先ほどの女性も「スーツでも華美になる可能性はあるし、値段だって袴とそこまで変わらない。一体どうしてほしいのでしょうか」と訝る。卒業式当日、何を着るかについては「市教委の“お願い”よりも、娘が選んだ服で出席させてあげたい気持ちの方が強い。正直、迷っています」。
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2年ほど前、小学校の卒業式で袴を禁止する動きがあることについて、ネット上でいち早く意見を表明していた甲南大学法科大学院教授で弁護士の園田寿さんにも話を聞いた。
園田さんは「服装に関しては学校側が一定程度の制限を設けるべき」という考えだ。「経済的に厳しい生活を強いられている人が、子供に袴を着せてやれず、心苦しい思いをするようなことがあってはならない」と理由を述べ、「弱者への配慮」という観点から、今回の市教委の姿勢を肯定的に受け止める。
ただし、文書に記載されている「華美な服装が望ましくない理由」の数々(気分が悪くなる、転倒するなど)については、「個人的にはこじつけが多いように思えますね。保護者が怒るのも無理はありません」とばっさり。その上で「禁止は上からの強制ではなく、緩やかなものであるべきです。学校や教育委員会としては、保護者の見識に強く訴えかけるしかないのではないでしょうか」と見る。
市教委の担当者は「児童や保護者の気持ちに水を差してしまったことは申し訳なく思います」としつつ、「近年の服装が華美になっていく傾向について、一部の保護者から『うちでは(経済的に)着せられない』といった切実な訴えがあることも事実。どんな服装がふさわしいのか、改めて考えるきっかけにしてもらいたい」と話している。
(まいどなニュース・黒川裕生)