不法滞在ほう助罪で逆転無罪の画期的判決 前科付かず、法の濫用に警鐘と小川泰平氏が解説
韓国人男性と内縁関係にあった日本人女性が、不法滞在ほう助の罪に問われたことを不服として行われた裁判で、東京高等裁判所は今月12日の2審で1審の有罪判決を取り消し、無罪を言い渡した。昨年10月の1審から取材を続けてきた元神奈川県警刑事で現職時、国際捜査課で勤務経験もある、犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は16日、当サイトに対し、逆転無罪判決の意義をつづった。
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今回、高裁で無罪判決を言い渡されたのは、都内に住む50代前半の日本人女性。同棲していた韓国人男性の在留資格が切れてから一昨年までの2年間、男性を自宅に住ませたことが不法滞在のほう助にあたるとして罪に問われ、昨年10月19日の1審で罰金10万円の有罪判決を受けた。
女性は、警察の取り調べに同調する形で供述調書を作成され、在宅で書類送検された。「略式の予定」と言われた女性は、その意味を理解できず、弁護士に相談した。なぜ自分が罰金を払うのかということで略式の同意を取り消すと、検察は在宅起訴し、東京地裁で罰金10万円の1審判決が出た。女性被告は主張が通らなかったことから控訴し、高裁で争ったという経緯だ。
警察側の言い分は、2年間、男性を自宅に住まわせていたことが「ほう助」に当たるということだった。オーバーステイが切れる時に「帰らないで」とか「一緒にいて」などと女性が積極的に話したわけではなく、普通に暮らしていた。女性には「ほう助」という意識は全くなかった。
外国人同士で在留資格のある者とない者が同居している場合、オーバーステイの者が捕まっても、在留資格がある方は罪に問われないのが通常である。日本人も同じで、同居していた外国人女性がオーバーステイしたからといって、日本人男性がほう助にはならない。ところが今回は、それをほう助とした。
私は神奈川県警に在職中、国際捜査課にいたので、同居した者をほう助で捕まえたことはあったが、それはあくまでも薬物事案だとか、今後、突き上げ捜査が必要な場合だった。その背後にある犯罪を摘発するなどの目的がある場合は、同居している者を(とりあえず)共犯で逮捕することは捜査手法の一つとしてある。だが、同居しているというだけで起訴して罰金を取るということはまず考えられない。そこから私はこの裁判に興味を持ち、注視してきた。
本件裁判の主任弁護人の倉地智広氏(東京第一弁護士会)は私の取材に対して「同居していただけでは罪に問われないと、裁判所が明確にしたことには意義がある」と話している。起訴されると、99・9%は有罪と言われている中で、逆転無罪は非常にレアなケース。まだ最高裁が残っているので、最終的な結果は分からないが、2審の判決は意義がある。
この韓国人男性は執行猶予となり強制退去処分になった。最低5年間は再来日できないといわれているが、5年後に来日しても入管で入国拒否が予想される。同居女性が無罪になっても、男性が強制退去になることには変わりないが、この無罪判決の意義は同居女性に罰金による「前科」が付かないことにある。
最高でも10万円の在宅罰金。起訴されたからといって収監されるわけでもなく、黙っていれば、周囲にも分からないので、費用の掛かる裁判を起こさない者が多い。だが、罰金という形でそれは前科になる。今回、同居相手に「罰金=前科」が付かないという判例ができれば意義がある。これから、外国人を日本に呼ぼうという時代。無罪判決は、法の濫用に対しても、警鐘を鳴らした。