「骨盤臓器脱」って? 手術すべき?しないべき?
膣に子宮やぼうこう、直腸が下がってくる「骨盤臓器脱」にはどういう治療法があるのでしょう?手術すべきでしょうか。(聞き手/広井千夏子アナウンサー、解説/芦屋市立芦屋病院産婦人科部長、木村俊夫医師=兵庫県医師会)
広井アナウンサー:80歳女性からのご相談です。「『子宮脱』と診断されました。現在痛みはありませんが手術を受けるため診察してもらうと『切らずに引っ込める』という方法があるといわれました。今にじみ出ているおりものを処置しないで大丈夫でしょうか。どこから出ているのか気がかりです」とのことでした。そもそも、「子宮脱」とはどういう病気なのでしょうか。
木村医師:「膣から子宮が下がる病気のことをいいます。子宮以外にもぼうこうや直腸が下がる場合もあり、最近はまとめて『骨盤臓器脱』と呼ぶようになっています」
広井アナウンサー:どういった症状が出るのでしょうか。
木村医師:「膣内に何かが触れたり、膣から何か出てきたりした場合に、直接的な症状の下垂感のほか、脱出感があるという直接的な症状のほか、下に引っ張られるような鈍痛やおりもの、出血があることがあります。また、ぼうこうが下がった場合には排尿のトラブルを抱えることが多く、尿が出にくくなったり近くなったり、尿漏れを生じることもあります」
広井アナウンサー:骨盤臓器脱の受診のタイミングは。
木村医師:「骨盤臓器脱自体は、直接生命にかかわる病気ではないので、少し下がっていても特に困っていなければ様子を見ていても問題はありません。ですが自然に治ることはありませんし、生活の質を落とすのであまり我慢せずに受診することをおすすめしています」
広井アナウンサー:どのように治療法があるのですか?
木村医師:「一般的には骨盤底筋体操や膣内にペッサリーという器具を挿入する方法、手術があります。骨盤底筋体操に関しては、骨盤臓器脱の予防や尿失禁の治療には効果があるのですが、下がった臓器自体を押し上げる治療ではありません。ですので、私はより積極的なペッサリーか手術をおすすめしています」
広井アナウンサー:ペッサリーとは?
木村医師:「膣の中に入れて骨盤臓器の脱出を防ぐ器具のことです。一般的には丸い形をしているので『リング』とも呼ばれます。入れるときに鈍痛があることがありますが、外来ですぐ入れることができ、不具合があればすぐ出せます。挿入後はほとんど違和感がなくなりますが、まれに痛みが残ることもあります。その場合はサイズを小さくすることもありますが、小さすぎると落ちることもあります。ペッサリーは継続できれば非常に有効な治療法といえますが、長期に膣内に異物を入れておくことになりますので、慢性的に炎症が起きやすく、おりものの原因になることがあります。挿入している間は洗浄や交換のため通院が必要になります。長期間受診しないと膣壁にのめり込んでぼうこうや直腸につながる穴が開いたという報告もありますので、必ず受診をしていただきたいと思います」
広井アナウンサー:手術についてはどうでしょう。
木村医師:「骨盤臓器脱には非常に多くの手術があります。どの臓器がどの程度下がっているか、補強に用いる人工素材『メッシュ』の適用があるかどうか。また、年齢や性交渉の重要度などを考慮して決めていきます。手術は基本的な根本的な治療になりますが、術後の再発や性交時の痛み、尿漏れなど少し問題があります」
「再発は、残念ながら人間の組織は時間がたつと弱くなるため起きてしまいます。予防のため、最近では人工素材『メッシュ』を使う手術が開発され、世界中で急速に広がりました。ただ海外で合併症の多く報告されたことから、現在は制限する方向になっています。日本では海外と同様にメッシュを使った手術が非常に広く行われてきて、幸い合併症の報告もあまりなく、学会が主催する講習を受けた専門の医師が行うのであまり問題ではないと思います」
「もう一つは、性交痛の問題ですが、骨盤臓器脱の患者さんはちょっと膣が広がっていることが多いんですね。それを、再発予防のため狭めるようにするんですが、多かれ少なかれ痛みが生じる可能性がある。再発のリスクと性交痛の問題を天秤にかけて手術の方法を決めていきます。また、骨盤臓器脱は尿漏れをしばしば伴うのですが、これは手術で多くの場合、非常に良くなります。ただ、手術後も少し残る患者さんもおり、残念ながら完全に防ぐことはできません。術後の尿漏れについては対応ができます。最終的に治療は医師によって考え方や経験によってすごく対応が変わりますので、個々に相談して頂きたいと思います」
広井アナウンサー:おりものについてのご相談もありました。
木村医師:「おりものは脱出した子宮の先が下着などにふれて炎症がおこることで生じます。臓器の位置を直して元に戻れば治るので心配はいりません。ただ、子宮がんなどの病気が合併している可能性もありますので、子宮がん検診は必ず受けてください」
(ラジオ関西「みんなの健康相談」放送分より)