東日本大震災で被災し、放浪していた黒柴系雑種のチーくん 温かい家族のもとへ
東日本大震災で被災したチーくんは、保護団体による大規模レスキューで救出されるまで、あてどもなく放浪していた。よほど困っていたのか、レスキュー時は、ボランティアのところに駆け寄ってきた。
■被災犬チーくん
黒柴系の雑種、チーくんは、2011年3月11日に発災した東日本大震災の被災犬だ。震災から約1カ月後、避難区域に取り残された動物の大規模レスキューが行われた時に、福島県浪江町で放浪していたところ、保護団体ARKの男性スタッフがチーくんを見つけると、飛んできたという。こげ茶色の首輪をしていたので、震災前は誰かが飼っていたと考えられている。
その頃、滋賀県に住む寺澤さんは、愛犬のゴールデンレトリーバーを亡くして2年が経ち、「そろそろ犬を飼おうか」と話していた。ただ、ペットショップに足を運んだが、なかなかピンとくる犬に出会えず、インターネットで検索しているうちに、里親や保護団体のことを知ることになった。
「多頭飼育崩壊や虐待にあった子たちが里親を探していることを知り、命を救う活動に感銘を受けました」
■寝ぼけ眼で対面
テレビなどのメディアが、毎日、震災の被害状況やボランティア活動のことを報道していて、寺澤さんは募金をした。「他に何ができるのか」と考えた時に、被災犬の里親を募集していることを知り、阪神淡路大震災の時も被災犬をレスキューした保護団体ARKに行ってみることにした。
ARKで被災犬と面会すると、一匹だけ犬舎に引きこもって出てこない犬がいた。どんな犬かと思ってスタッフに何度も呼んでもらうと、眠たそうな顔をして出てきたのがチケットくん(現在:チーくん)だった。中型犬だが、以前、ゴールデンレトリーバーを飼っていた寺澤さんには、すごく小さな犬に見えた。たれ耳も可愛くて、少しきょとんとしたあどけない感じが可愛くて、「この子や!」と思ったそうだ。
寺澤さんは、面会から約1カ月後の5月下旬にチーくんを引き取り、チケットくんという名前だったので、チーくんと呼ぶことにした。
■意外と神経質だった
「震災のトラウマがあって、なかなか思うように飼うことができないかもしれないけど、穏やかな老後を過ごさせてあげたいと思い、家族で話し合って引き取りました」
ARKから車で連れ帰ると、チーくんは、ぱたんと倒れてぐっすり眠った。2時間後に起きてから我に返って、「ここはどこ?」といった表情で、おどおどしていたという。息子さんが近寄ると、うーっと威嚇した。
獣医師によると、推定年齢9歳だった。たれ耳なので幼く見えたが、思いのほか年を取っていた。フィラリアも強陽性だったが、4年後に陰転した。
散歩をしていると、水田の水や水たまりの汚い水を飲もうとしたり、車にひかれてぺたんこになっているカエルを食べようとしたりした。
「野良犬みたいなところがありました。家では掃除機やガラケーをパタンと閉じる音も怖がって飛びあがり、震災のトラウマなのかなあと思いました。頭をなでようと思って手を挙げると身構えたので、ショックでしたね。人がいるリビングより、静かな仏間がお気に入りでした」
意外と神経質だったチーくん。無理に触ろうとするとううっと言うし、しばらくは、散歩と食事以外の時は、好きなようにさせていた。しかし、コミカルなところもあり、チーくんとの暮らしは楽しかったという。3年目からはなれてきたようで、家族が帰ってくると近寄ってくるようになった。30センチ手前までは近寄ってくるが、それ以上近づこうと思うと逃げていく。ぎゅっと抱きしめたかったができなかった。
■認知症になったチーくん
5年目、14歳くらいから老化が始まった。目や足腰の衰えに加え、心臓弁膜症の発作も起こした。チーくんは、この頃からやっと触らせてくれるようになった。
2014年に、庭に現れた子猫を保護したので、猫との共同生活が始まるが、子猫が近づくと牙をむくので、子猫が学習して近寄らなくなった。
その後、チーくんは認知症になって、一日中に吠え続けたり、ぐるぐる回って歩いたり、一方通行で歩いて物にぶつかってケガをしたりするようになった。かわいそうだと思う反面、家族みんなが慢性的な睡眠不足になり、険悪な雰囲気になったこともある。対応に困った時は家族で話し合い、夜中の世話当番を交代制にしたり、工夫をして介護に取り組んだり、できる限りチーくんの苦痛を和らげる努力をしたという。
介護生活が1年半くらい続いた頃、チーくんが弱ってきて、鳴き声も小さくなってきた。すごく甘えるようになって、抱いたら鳴きやむこともあった。次第に水分も食事も摂らなくなり、2019年2月19日、チーくんは寺澤さんの腕の中で息を引き取った。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)