鍼は痛くないし灸も熱くない!?“うさんくさくない”東洋医学の今
あまりなじみのない東洋医学の世界や鍼灸業界を知ってもらおうと「第3回鍼灸フェスタOSAKA2019」が、大阪市東成区の森ノ宮医療学園専門学校でこのほど開催された。これまで閉鎖的だった業界が次世代に向けて交流を深め、風通しを良くしようとするユニークで画期的なイベント。大賑わいの会場をのぞくと、何から何まで驚きの連続だった。
1人でも多くの人に東洋医学の素晴らしさを伝えたい。そんな思いからこの鍼灸フェスタは始まった。3回目を迎える今年は治療家の団体と業者を合わせると50を超えるブースが出展され、参加者1000人を超える大規模なもの。狭い業界を考えると、国内最大級の鍼灸イベントと言ってもいいほどだ。
始まりは2017年。外部から見ると、東洋医学の世界はどちらかというと昔気質で、ともすると、うさんくさいイメージを持たれていた。内部ではいろんな流派に枝分かれし、それぞれが閉鎖的。自分たちの技術を守る傾向にあった。その流れを変え、業界の底辺を広げようとイベントを仕掛けた1人が、株式会社はり灸おりべ(京都市)の川嶋総大さんだ。
「この業界は職人の世界なので、実は互いのことをよく知らない人が多いんです。このままでは先細りになり、展望が開けない。そこで壁をとっぱらい、交流してもらって風通しを良くしようと思いつきました。このようなイベント、今までではあり得なかったのですが、ご参加いただいた団体様、企業様、みなさまのご協力のもと実現することができました」
狙いは大成功。注目度は回を重ねるごとに高まり、それは出展ブースや参加者の多さに表れている。もちろん、午前9時から午後5時まで設けられた30の各セッションも大盛況だった。
実際に、恐る恐る体験してみると、驚くことばかりだった。全く知らない世界。鍼は痛くて灸はめちゃくちゃ熱いものと思っていたが、これが拍子抜けするほどだった。
まず真美の会(愛知県一宮市)の荒深公泰鍼灸師に腕と頭のてっぺんのツボ(百会)に打ってもらったが、いつ打てれたか分からないほど。なるほど鍼の太さはわずか0・12ミリ。髪の毛というより産毛のように見えた。むしろ、痛い方がご利益がありそうと手のひらを返してしまいそうになった。
感心したのは(一社)北辰会(大阪市)のやり方。山本克仁鍼灸師は「どんな症状でも打つのは1カ所のみ」と教えてくれた。その後、北辰会専用初診カルテを見せてもらったが、目新しい表現ばかり。相当奥が深そうなのは分かった。
おもしろそうだったのは備前百会灸の会(岡山市)の独特なお灸。「ほうろく皿」といわれる備前焼の素焼きの器を頭に置き、その上に「もぐさ」を乗せ、頭のツボにお灸するもの。弘法大師が広めたという。
業者側で凄いと感じたのは先ほどの極細の鍼をつくった(株)いっしん(神戸市)だ。鍼の強度を考え、アメリカ製のステンレスを使い、中国で生産するというこだわり。痛みが全くなかったのは、その特殊な技術のおかげだろう。同社の松尾知美さんは「すべての人の身になってつくってます」と話していた。
この日、知ったのはごく一部。それでも健康や予防医学への意識は高まり、鍼灸に対する認識も大きく変わったのは言うまでもない。
(まいどなニュース特約・山本 智行)