「不倫ですよ!路上ですよ!」N国躍進の要因となった政見放送のルール…総務省に聞く
7月の参院選で「NHKから国民を守る党」(N国)の政見放送が話題になった。YouTubeでの再生回数が300万以上となり、比例区で1議席を獲得。得票率で政党要件を満たして国政政党となるや、29日に丸山穂高衆院議員の入党、30日には渡辺喜美参院議員との参院会派結成を発表するなど、もはや看過できない存在として注目されている。そこで、N国躍進の要因としてクローズアップされた「政見放送」を改めて検証した。
N国の立花孝志代表は参院選の政見放送において、3年前に地方局の男女アナウンサーが「不倫路上カーセックス」したことをNHKが隠蔽したとして批判。「不倫ですよ!路上ですよ!カーセックスですよ!」という下世話でインパクトのあるフレーズを計9回も叫んだ。“良識”のある大人はまゆをひそめる内容だが、「面白い」と受け取る層も多かったという事実は選挙結果で証明された。
立花代表はこの政見放送で、決めフレーズの「NHKをぶっ壊す」を笑顔と右手の握りこぶしとのセットで15回発した後、16回目はお茶の間とのコール&レスポンスで、17回目は「NHKを…」で突然映像が切れ、それに続く「ぶっ壊す」というワードが見る者の脳裏に刷り込まれるというサブリミナルな演出をした。これは効果的だった。
N国は、受信料を払った人だけがNHKを視聴できるようにするスクランブル放送の実現を訴えているが、実現化に至る詳細なプロセスは割愛。単純化した「NHKをぶっ壊す」というキャッチコピーをひたすら反復する大衆向けの戦略も際立った。
かつては東郷健、三井理峯、近年では外山恒一、後藤輝樹…といったインパクトのある政見放送を残して落選した候補者とN国との違いは何か。既に地方選で市議や区議を当選させて地盤を築いていた組織力や、ユーチューバーである立花代表らによるネット発信の実績。何より大きかったのは、2013年にインターネットを利用した選挙運動が可能になった公職選挙法の改正だ。この年にN国は誕生している。
参院選後も続く「N国ブーム」は、改めて政見放送とは何かについて考える契機となった。「政見放送のルール」について、総務省選挙課に確認した。
政見放送で「言っていいこと、ダメなこと」の線引きはあるのか。総務省の担当者は当サイトの取材に対して「公職選挙法150条によって、発言の中身がどうであれ、そのまま放送しなければなりません」と指摘。150条では「録画した政見をそのまま放送しなければならない」と編集を禁じている。過去には都知事選の政見放送で男女性器の俗称を発した音声が削除されたことを記者は記憶しているが、総務省は「削除したケースについては、NHKや(民放の)放送事業者の判断によるもの」と説明した。
では「カーセックス」の連呼は許容範囲なのか。「公選法150条の2」では「品位を損なう言動をしてはならない」とされている。その判断は局側に委ねられており、実際、音声は処理されなかったことから、不問にされたということになる。
また、今回の栃木選挙区でイチゴの被り物をして政見放送に出演したN国の候補者がいたが、コスプレはOKなのか。総務省の担当者は「『政見放送及び経歴放送実施規程』では『特別の意図を有するもの』は禁じられています。たすき、はちまき、腕章が該当します」と解説。何かを主張するツールになりうる「たすき、はちまき、腕章」はNGだが、コスプレに関してはグレーゾーンのようだ。総務省は「NHKや(民放の)放送事業者が『やめてください』ということはあるでしょうが、それで収録自体をやめてしまうことになると(そこまでの指導は)難しくなる」という。
小道具の持ち込みについても聞くと、「放送上、原稿用紙以外の道具を使ってはいけません」。原稿用紙は「道具」なのだ。さらに「発言内容の事前チェック」の有無を尋ねた。総務省は「選挙活動の自由から、それは『検閲』になるのでチェックはしません」とした。
「検閲されない自由」がある選挙で、N国はしたたかに議席を獲得した。=文中敬称略=
(デイリースポーツ・北村泰介)