両前足麻痺のチワワが鍼治療で歩けるように…ペットの悩みに東洋医学からのアプローチ

 犬や猫にも「鍼治療」や「漢方薬」といった東洋医学からのアプローチが有効なのをご存知でしょうか。神戸市東灘区にある『兵庫ペット医療センター 東灘病院』には鍼灸漢方専門外来があり、週に一度、専門の獣医師が相談・治療に当たっています。

 取材当日、鍼治療に訪れたのは兵庫・西宮に暮らす大上麻美子さんの愛犬・チワワのチョボ君、12歳。約2年前、両前足に麻痺が起こり、立てなくなってしまいました。原因を究明するにはMRI検査が必要と言われましたが、すでに高齢であったこと、他にも疾患を抱えていたことから、全身麻酔は避けたいと考えた大上さん。医師の勧めで鍼灸漢方専門外来を受診することにしました。担当獣医師である神田優子先生は、国内の動物病院で8年間、臨床医として経験を積んだのち、アメリカでCHI-INSTITUTE小動物鍼灸コースを受講、2015年に兵庫・姫路市で動物の鍼灸治療を専門に行う『クーラアニマルクリニック』を開設しています。

 鍼灸漢方専門外来では毎回、丁寧なカウンセリングが行われます。西洋医学でも「問診」が大切なのは同じですが、さまざまな検査によって、動物の体の状態が数値化される西洋医学と違い、東洋医学ではその動物の様子を見て、声(音)を聞いて、体に触れている飼い主さんからの情報がより重要になってくるのです。

 チョボ君が専門外来を受診するようになって2年余り。最初は週に一度、鍼治療を行っていましたが、症状に改善が見られた今は、2週間に一度のペースに減っています。全身に24~25本の鍼を打ち、微弱な電流を流す--その光景は人間の鍼治療と何ら変わりません。

 「鍼も人間と同じものを使います。東洋医学では、体のバランスの乱れが原因で病気になると考えられていて、その乱れを鍼や漢方で整えていくのですが、バランスを整えるには、鍼を局所に打つのではなく、全身に打つことが必要になります。犬のツボは360以上あると言われていて、大型、小型は関係ありません。打つ鍼の本数は症状や体調によって変えていきます」(神田獣医師)

 人間でも「鍼は苦手」と言うヒトがいますが、動物はどうなのでしょう? 暴れたりしないのでしょうか? 神田先生によれば、「チョボ君は最初から落ち着いていましたし、少し嫌がる子も、『これをすれば体が楽になる』と分かるのか、すぐに慣れてきますよ」とのこと。

 チョボ君はMRI検査等受けていないので、両前足が麻痺した本当の原因は不明のままですが、神田先生の見立ては「頸椎のヘルニア」。西洋医学では手術以外に治療法はないとされていますが、鍼治療と漢方薬の併用により、開始から約9カ月後の18年1月、再び歩けるようになりました。

 「インターネットでいろいろ調べていたら、『鍼治療を始めて9カ月で効果が出てきた』と書いている飼い主さんが何人かいて、期待していたら、チョボもそうだったんです」(大上さん)

 もちろん、その期間は年齢や症状にもよりますし、残念ながら劇的な変化が見られない場合もあるでしょう。それでも、取材をして感じたのは、夏の体調管理に適した食べ物のアドバイスをもらったり、家庭でできるマッサージ方法を教えてもらったり…飼い主がペットの病気とポジティブに向き合える要素が、一般治療に比べて多いのではないか、ということでした。

 「飼い主さんが病気のペットを見て、ただただつらいと感じるのではなく、しっかり向き合うことで、充実した時間を過ごせるようになります。そうすれば、ペットにもいい影響が出る。動物もヒトと同じで『病は気から』。ペットの心は飼い主に依存していますから、その精神状態に大きく左右されます。動物の持つ力、飼い主の力、そして治療--3つがそろって初めて改善が望めるのです。西洋医学と東洋医学を切り離して考える必要はなく、鍼治療や漢方薬によって免疫力が上がれば、一般薬の効果が上がることも期待できるんですよ」(神田獣医師)

 愛するペットが病気になったとき、どこまで検査するか、治療するか、手術を望むか…飼い主が考えるべきポイントはいくつもあります。その際、年齢や体調を考慮して、鍼治療や漢方薬など東洋医学も選択肢に加えることができれば、ペットとともにより良い生活を送れるのではないでしょうか。

(まいどなニュース特約・岡部充代)

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