虐待されていた猫のポン太 「人間嫌いにならずにいてくれてありがとう」
都内に住む玲子さんの家に4匹目の猫がやってきたのは、娘さんが、その猫の虐待現場に遭遇したのがきっかけだった。
7年前のある夜、終電を下りた娘さんが電話をしながら自宅に向かっていると、男が茶色いかばんのようなものを蹴飛ばしては地面に投げつけていた。「彼女にでもフラれた腹いせかな」。電話を続けながら遠巻きに見ているとカバンらしきものがモゾモゾと動いた。男はそのモゾモゾを塀にぶつけると去って行った。近寄って中を見るとグッタリした猫が入っていた。
実は娘さんは猫アレルギーの持ち主。引っかかれると、ひどく腫れ上がったりするため、自分で直接手を差し出せない。家猫のかかりつけの獣医さんに電話をかけたがどうにもならず、警察に電話を入れると、まずはおまわりさんが、その後、パトカーがケージを積んで到着。猫は一時的に保護された。その間、2時間近く、娘さんは猫のそばにしゃがんで「痛かったね」「大丈夫だからね」と声をかけ続けたという。
一部始終を聞いた玲子さんは翌日、近所に住む猫の保護活動をしている女性に相談。その女性は警察に出向いて猫を引き取ると、病院に連れて行った。検査の結果は「左後ろ足の靱帯損傷」。右後ろ足は骨折したまま治っていたことも判明。手術とリハビリで入院期間は1カ月以上に及んだ。
退院後、猫は女性の家でケージ暮らしを始めたものの、ほかにも何匹もの猫が保護されており、そこで暮らし続けるのは難しかった。玲子さん一家にも3匹の保護猫がいたが、仕事の都合で家を出ることになった娘さんの「私のお部屋をあの子にあげるから飼ってあげて」の言葉が後押しとなった。
一家の仲間入りをした猫はポン太と名づけられた。当時のポン太は獣医さんに「6歳以上」と断言されたオジサン猫。先住猫3匹はやんちゃ盛りの2歳。ポン太は若い猫たちのことが嫌いで唸ってばかりだったため、息子さんの部屋で隔離して飼うことになった。
猫同士の関係はうまくいかなかったが、人間につらい目に遭わされてきたにもかかわらず、ポン太は人間好き。最初から怖がることなく一家になじんだ。ただ、虐待の後遺症か、情緒不安定な面があり、ブラシをかけられて気持ちよさそうにしていたかと思うと、突然、唸りだしたり、甘噛みしたりもあるという。足腰も弱くジャンプ力もない。高い所からも飛び降りられず、ワンクッション入れるのが常だという。
「うちに来て7年ぐらいだけど、一体、何歳なのかな…。面倒くさいヤツ。だけど、かわいい。でも、かわいそうというか、申し訳ない気持ちもある。あんな目に遭ったのに、人間嫌いにならずにいてくれてありがとうって思う」
せめて、ここでは心地よく暮らしてほしい。それが一家の願いだ。隔離された部屋の中には小さな屋根付き一戸建てが置かれ、夏はエアコンの風が優しくそよぎ、冬は湯たんぽが置かれて、と至れり尽くせり。そんな「お城」でのポン太の一番のお気に入りは、同じ部屋で暮らす息子さんのおなかの上。「私が抱っこして、なぜなぜしてもゴロゴロ言わないけど、夜は息子のおなかの上にチャンピオンベルトみたいに乗っかってゴロゴロ言ってるらしい」。玲子さんはうれしそうに教えてくれた。
(デイリースポーツ・若林みどり)