日本ではまだ聞きなじみのない『ブランディング』。渡邊デルーカ瞳さん（３７）は「ＨＩ（ＮＹ）」という会社を経営し、「企業の問題点や強みを見極め、問題解決方法を柔軟にクリエイティブに考え出し、それを可視化して伝わる形にする」という“ブランディング”を手がけている。

　現在、ニューヨークを中心に活躍。コカ・コーラのボトルの１００周年デザインにも選ばれ、米国の大手保険会社も顧客に持つ。ヨーロッパや中東の会社などのブランディングも手掛け、グローバルに活躍している。

　愛媛の高校を卒業後、１８歳で渡米し、ニューヨークの芸術大学ＳＶＡに入学。「本当は小学生のときに、中学から海外に行きたかった。でも両親は『高校までは日本で』と。やはり心配だったんでしょうね」と軌道修正しつつ、着実にその夢に向かって努力してきた。

　念願かない入学したＳＶＡで、共同経営者である小山田育さんと出会った。卒業後、ＭＴＶや広告代理店を経て２００８年、２人でニューヨークに会社を設立、１６年には京都に日本支社も開設。４月にビジネス書『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』も出版した。

　順風満帆にも見えるが、「言葉のハンディがある分、ネーティブの人の３倍努力するつもりだったし、実際してきた」と振り返る。「日本人だし、女性だし、マイノリティー。嫌な気分になったことはもちろんあります」。その一方で「努力すれば認められる。理不尽な扱いは受けていない」と言い切る強さと、しなやかさを持つ。

　夫は、高級食品店「ディーン＆デルーカ」の創始者の一人、ジョルジオ・デルーカ氏。家の近所にある行きつけのレストランをデルーカ氏が経営していたことから知り合い、２０１０年に結婚した。夫の影響もあり、食に興味を持った渡邊さんの趣味のお菓子作りはプロ級。その腕前を買われ、昨年はディーン＆デルーカが日本進出１５周年だったこともあり「デルーカ家のアップルパイ」をプロデュースし、クリスマス限定で販売した。

　結婚したことで、視野も大きく開けたという。「夫からは学ぶことばかり。スポンジが水を吸収するというのはこういったことなのかと、自分自身の変化に驚く」と素直に尊敬。なかでも「自分が美しいと思うことに、妥協はしないこと」という夫の言葉が、仕事のポリシーともなった。

　１５年に長男も誕生。それまでキッチリと計画を立てて、それに沿って進めるタイプだった。「だけど子供がいると、計画通りには進まない。基本、子供の時間に合わせて仕事をし、いい意味で緩やかになってきました」と笑う。

　中学で海外を目指す娘を一度は止めた両親も、現在グローバルに仕事をする娘を全面的に応援してくれている。実は日本支社を開設するにあたり、気に入る机が見つからず、悩む渡邊さんのために一肌脱いでくれたのも父だった。「ニューヨークの会社で使用しているのと同じものをわざわざ作ってくれたんです」と感謝する。

　年に１度は１カ月ほど帰国するが、純粋な“休暇”ではなく、支社や東京で仕事があり、忙しい毎日を送る。今後は「日本はまだ本来の意味でのブランディングが根付いていない。それを根付かせることができれば」とその名の通り“瞳”を輝かせた。

（デイリースポーツ・石川 美佳）