中卒、大人不信、帰国子女…波乱万丈な子どもたちが利用する関西のWeb塾とは
世の中にはさまざまな塾がある。神戸市北区にある「web塾ko-ko(ココ)」はスカイプ(テレビ電話)を利用し、自宅のパソコンやタブレットで講師と生徒が1対1のオンライン授業を行う塾。ネット環境があれば場所を選ばず、生徒の都合に合わせた時間に学べるのが魅力だ。生徒の進度や学力に合った指導なので、多様な子どもたちが学んでいる。塾長は20代前半の、優しいまなざしが印象的な田上(たのうえ)裕太さん。どのような生徒がいるのだろうか。
はたちを過ぎ、すでに社会人として働いていたAさん。ある日、半年後に行われる自衛隊一般曹候補生の試験を受けたいと、塾の門を叩いた。求められるのは高校卒業程度のレベル。最終学歴が中卒のAさんは、当時、中学校の数学さえほとんど理解していなかった。その状態で半年後に受験とは到底無謀な挑戦だ。しかし「半年間寝ないで勉強しないと無理だ」と言われてもひるまない。Aさんは本気だった。必死で取り組み、無事、Aさんは合格通知を手にした。
Bさんは中学3年だが、小学2~3年の頃から不登校だ。原因は教師による言葉の暴力。しかも同じ時期に複数の教師から、人格を攻撃するような言葉を浴びせられ、家族以外の大人は恐怖の対象になった。
Bさんが保護者とともに塾を訪れた時、年齢の近い田上さんが面談に応じた。教師からの暴言がきっかけだったこともあり、Bさんは当初、教育者の田上さんをかなり警戒したそう。「とにかくひたすら話を聞き、思いを受け止めることに徹した」田上さんに、Bさんは心を開いていく。何度も面談を重ねko-koで学び始めたBさんは「高校へ行きたい」と自ら口にする。さらに、将来は自分のような人の力になりたいと臨床心理士を志すようになる。
「Bさんは、自分をどうにかしたい気持ちをずっと抱えてたはず。そこへうまく風穴を開けられたと思う」と田上さん。現在は、内申点を補うために特別学級へ通い、そこで勉強している。教師という大人がいるため通えなかった特別学級にも徐々に慣れ、今は週5日間通えるまでになっているそうだ。
帰国子女を見てみると、彼らが直面するのが海外と日本の教育システムとのギャップだ。小中学生で海外へ出て、数年過ごしたのち帰国、受験期を迎える子どもたち。学力においては、数字を使う理数系科目は楽勝かと思いきや、異なる出題形式や日本語の問題文でつまずく子どもが多いそう。やはり国語力が基本と痛感した田上さんは、数学や理科の教科書の解説する前に、まず生徒に音読してもらっている。しかも速音読だ。「できるだけ早口で読んでもらうんです。メリットは2つ。まず、音読なので読めない漢字がはっきりわかります。2つ目は、生徒自身が理解できない部分を自覚できること。人間って、よくわからない部分を読む時に読めなくなる。止まるんです。だから生徒は、その後の解説をきちんと聞こうとします」。さらに文章の塊(かたまり)が理解できるようになれば、リズムよく日本語を読めるようになるそうだ。
「1対1で行うメリットは、生徒ときちんと向き合えること。録画ではなく、テレビ電話のスカイプだから講義も一方的になりません。質問は講義中以外にラインなどでも常に受けています」と田上さん。他にも部活動が忙しく一般の塾へ通えない子どもにも、ぜひこの塾を利用して欲しいと語る。「塾なので成績アップにこだわるけれども、成績は進学のための1つの手段。社会人で必要なのは主体性です。学力と主体性の2つを伸ばすお手伝いができれば、それがベストですね。時間はかかりますけれど」と笑った。
web塾ko-koは約5名の講師による担任制。担任は入塾時の面談で決めるという。保護者へは報告書を送り、質問や相談にも応じる。「私たちと話すうちに親御さんの意識が変わり、子どもとの関係が良好になったという人もいた」という田上さんは、子どもが変わるためには周りの大人が変わらなくてはと語る。そのため、保護者向けにラインや電話などで思いを吐き出しストレスを取り除くことも行っている。
(まいどなニュース特約・國松 珠実)