高速道路で脱走!野うさぎを捕まえていた保護犬、あふれる生命力で家族の「生きる力」に

 大東犬の血を引く大吉君(推定4歳)は、胴長短足と大きなお顔が特徴。沖縄・石垣島出身で、今は兵庫県尼崎市で暮らしています。大阪で犬の保護・譲渡活動を行う市民ボランティア「犬の合宿所in高槻」を経て、佐藤洋志さん・栄子さん夫妻に引き取られました。佐藤家は犬3匹、猫12匹、鳥2羽、プラス熱帯魚がたくさんいる“大家族”。犬や猫の大半は保護されていた子の里親になったり、夫婦が直接保護した子たちです。命を救われたのは、運と生命力が強いから。なかでも大吉君は群を抜いています。なぜなら…。

 3年前の夏、大吉君は石垣島から大阪へやって来ました。飛行機で関西国際空港に降り立ち、車で高槻市に移動中のこと。大吉君は高速道路のサービスエリアで脱走してしまいます。時速100キロ前後の車が行き交う高速道路。搬送ボランティアの方が道路に向かって走る大吉君を目撃しており、しかも、ネクスコ西日本には「近くのインターチェンジ手前で犬をはねた」という連絡も。もう命はないと、関係者の誰もがそう思っていました。

 ところが! それから11カ月後、大阪・岸和田市内で大吉君は発見されました。サービスエリアからほど近い工場敷地内に住みつき、従業員の方から朝・昼2回、ごはんをもらっていたのだとか。さらに、夕方には唯一なついていたというオジサンの家に行き、3度目のごはん。おかげで、行方不明になったときに比べて、発見時はかなり立派な体格になっていたそうです。

 ただ、人に飼いならされていたのかといえばそうでもなく、野うさぎを捕まえてくるなど、ワイルドな一面も。もともと石垣島では母犬と一緒に牛小屋で暮らし、親子でキジ小屋を襲撃したことから通報・捕獲され、保健所に収容されたと言いますから、まだ野生の血が濃く残っていたのでしょう。とにもかくにも、大吉君は交通事故に遭うこともなく、「奇跡の生還」を果たしたのです。

 そんな強運の持ち主に目を留めたのが、佐藤さんご夫妻。すでにサルーキのりんちゃんがいましたが、拡張型心筋症で余命宣告を受けており、「りんちゃんがいなくなったら寂しくなる」(栄子さん)と、保護犬を迎えることを検討していました。

「それまで見た子は主人に話すところまで行かなかったんですけど、ダイの記事を読んだときは、すぐに『この子に会いに行こう!』と言いました。とてつもない経験をしたすごい子がいると思いましたね」(栄子さん)

 夫婦そろって「お見合い会」に参加したとき、洋志さんは出張前でスーツ姿に大きなカバンを持っていました。そのカバンに、大吉君はジャー…オシッコをかけてマーキングしてしまいます。「破談」の2文字が犬の合宿所の方の脳裏をよぎりましたが、洋志さんは「これも縁やなあ」と笑ったそうです。

「私の膝にアゴをのせて甘える仕草がなんともかわいかったですね。“自活”していた子ですから、人に媚びることはない。でも、不器用なりに甘えてくるんです。合宿所の方には『この子は飼うのが難しいだろうから』と他の子を薦められたんですけど、私の心は動きませんでした。ダイがウチを選んでくれたと思っています」(洋志さん)

 大吉君の生命力は、佐藤家に来てからも発揮し続けられています。

「りんの発作が起きなくなったんです。心臓の薬は飲み続けていますが、発作が起きたときのニトロ(グリセリン)は飲んだことがありません。余命半年と言われていたのに、もう2年半近くになります」(栄子さん)

 大吉君を迎えて半年後、同じ保護犬のぽん太君も加わり、今は3匹仲良く暮らしています。「ダイもぽん太もりんが病気だと分かるのか、ワンプロ(犬同士がプロレスのようにじゃれあう遊び)はしても、絶対にかかってはいかないんですよ」と栄子さん。大吉君だけでなくぽん太君も、生きるパワーをりんちゃんに分け与えているのかもしれません。

 佐藤家に来て2年。栄子さんと一緒に犬のしつけ教室に通っている大吉君は、いろいろなことを学んでいます。その中の1つが「テイク」の合図で指示されたものを持ってくること。よく散歩に行く公園には、飲料水のペットボトルがたくさん落ちていて、最初は洋志さんがゴミ拾いをしていましたが、今では大吉君が口にくわえてゴミ袋に入れてくれるそうです。尼崎市の「美化委員長」に任命される日も、きっと近いでしょう。(まいどなニュース特約・岡部 充代)

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