ドッチボールを巡り紛争…10歳の少年が負傷、そして控訴…全米が注目する学校の判断
米国ミシガン州プリマスの小学校に通う10歳の少年が、休み時間にドッジボールのような遊びをしていて、友達の顔にボールを当てたとして加重暴行で訴えられた。ボールを当てられた子どもは脳震盪を起こし、目のまわりにあざができたという。
このニュースの第一報が流れたのは7月31日。しかし、ドッジボールのような遊びで、ボールを顔に当てたのは、4月30日のことである。学校は規則に依り、ボールを当てた少年に1日の停学処分を科した。クラスメートにけがをさせてしまった少年とその母親は、この処分で、問題は終わったと思っていたのである。
ところが、7月の半ば、ボールを当てた子どもの母親に少年裁判所から連絡が来た。ボールを当てられて怪我をした子ども側から訴えられたのだ。ちなみに学校はすでに1日の停学処分を科していることもあり、この訴えには全く関与していない。
訴えた子どもの母親は、同じ少年がこれまでにも息子の顔にボールを当てたことや、息子は慢性疾患があり、顔にボールが当たるのは危険なことである、と話している。
校内での遊びで、クラスメートの顔にボールを当てた10歳の子どもが、加重暴行で訴えられるというのは、訴訟社会の米国ならではのニュースだろう。しかし、米国人も当たり前のこととして受け入れているわけではない。
人種や学校と警察の問題と絡めて見る向きもある。
訴えられた少年は黒人。報道によると、顔にボールを当てられた少年は白人だという。米国では似たような内容で訴えられても、黒人の少年は、白人の少年よりも罪が重くなる傾向にあることが複数の調査でわかっている。今回も、裁判所に持ち込まれると、この傾向が反映され、黒人の少年に不利な判決が出るのではないか、という懸念を持つ人たちがいて、このニュースが注目された。
米国内では訴えられた少年を擁護する意見が多かったように見受けた。訴えられた母親が裁判に必要な4000ドルの寄付金を募ると、あっという間に15000ドルに到達した。
しかし、訴えた母親がやり過ぎだと切り捨てることもできない。米国では脳震盪のリスクがよく知られるようになってきている。脳震盪を繰り返すことや、回復しないままに再び脳震盪を起こすことは、重い後遺症が残る。もしかしたら、訴えた母親は、頭にボールが当たったときの学校側の対応に不満があって、我が子のクラスメートを訴えるに至ったのかもしれない。
さて、10歳の少年は、裁判でどのような判決を下されたのか。
結局、裁判には持ち込まれず、検察側が訴えを取り下げた。検察側は次のような声明を出した。
「両家族とも、子どもに愛情を注ぎ、子どもにとって最も良いことをしようとしていることは疑う余地がない。この件については、前進するためによりよい方法があると考える。双方が話し合いのテーブルにつき、両方の子どもたちの利益をもたらす解決策が出ることを切に願っている」。
当事者同士で話し合うべきということだ。常識的な見解に軟着陸したと言えるのではないか。ただし、感情的にこじれた両者の話し合いがうまくいくか。この学校で、休み時間にドッジボールに似た遊びを禁止する方向に動くか。それとも安全に配慮した形で遊びは生き残っていくのか。9月から始まる新年度に持ち越されることになりそうだ。