臨終に立ち会う「看取り士」という仕事…課題は男性1割、映画公開で認知度アップ図る
「看取り士(みとりし)」という職業をご存じだろうか。自宅で息を引き取る人に寄り添い、家族をサポートする仕事だ。その姿を描いた映画「みとりし」が9月13日から全国順次公開される。公開を前に、8年前から看取り士を名乗り、昨年出版された同作の原案本「私は、看取り士。」(佼成出版社刊)の著者で、一般社団法人「日本看取り士会」の柴田久美子会長に話を聞いた。
「命のバトンリレー」を訴える柴田さん。「亡くなった方の頭を膝に乗せていただき、3時間、5時間、9時間…と、交代で家族や親せきの皆さんの膝枕でしっかりお別れをしていただく」という例を挙げ、「ご遺体を見るだけではなく、触れる体験が一番大事」とした。
これまで200人以上を看取って来た柴田さんは「死とは怖いものでも、忌み嫌うものでもありません」という。だが、その死生観は「スピードや効率性の中で物事が進められていくこの国で失われている」と指摘する。
「60年くらい前は自宅で看取ることが一般的でしたが、今は85%以上の方が病院で亡くなります。死ぬところを見たことがない人が8割以上おられるかもしれません。瀬戸内寂聴さんは『人が最期を迎えるとき、25メートルプール・529杯分の水を瞬時に沸騰させるほどのエネルギーを生む』と言われました。それほどのエネルギーがある命自体を見ていないから、ゲーム感覚で人を殺したりできる人が出てくるわけで」
柴田さんの言葉に、41歳の容疑者によって35人が亡くなった今年7月の京都アニメーション第1スタジオ放火事件や、2016年7月に神奈川県相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が当時26歳の男によって殺害された事件などが重なった。いずれも、犯行前には犠牲になる人たち個々の顔や命に対する想像力などみじんもなかったのだろう。柴田さんは「それは、とっても思いますね」と、うなずいた。
看取り士には5つの仕事があるという。「相談業務。死生観を家族に伝える寄り添い業務。臨終間際の荒くなった呼吸に私たちの呼吸を乗せて穏やかな呼吸に収める『呼吸合わせ』。4つ目が看取りの作法をご家族に伝え、していただくこと。5つ目が命のバトンリレー。臨終後の体が温かいうちに触れ合って、きちんとお別れをしていただくことです」。柴田さんは「まったく新しい仕事だと思っています」と語る。
ぶしつけながら、収入をうかがった。柴田さんは「看取り、相談は1時間8000円で、そのうち5200円が看取り士本人に入ります」と明かしつつ、課題も挙げた。
「看取り士は昨年の約350人から現在は約600人と、ものすごいスピードで増えているのですが、男女の比率は男性1に対して女性が9。ほとんどが女性です。母性だけでなく、父性的なものも必要で、男性の方が『場を収める』という意味で向いていると思いますが、まだビジネスモデルが確立されていないことが男性の少ない一番大きな理由だと思います」
閉館が発表された東京・有楽町スバル座の最後のロードショー公開作品となる映画「みとりし」(白羽弥仁監督)の主演はベテラン俳優の榎木孝明。柴田さんは「映画で榎木さんにご登場いただいたのは、やはり男性に看取りをして欲しいという思いから。団塊世代の皆さんには定年後のセカンドライフとして、さらに団塊ジュニアの世代の方にも看取り士になっていただきたいです」と願った。
(デイリースポーツ・北村 泰介)