韓国ではワサビが放送禁止!? 日本語“言葉狩り”も…日本風居酒屋経営する韓国人夫婦の願い
戦後最悪と言われる日韓関係。今月6日、韓国のソウル市と釜山市は、戦時中に朝鮮半島出身者を働かせたとする日本企業を「戦犯企業」と位置付け、対象企業の製品を購入しないよう設ける条例を議会で可決した。条例可決直後、ネットやメディアで伝えられる不買運動の実態を確かめようと訪れた首都ソウルでは、テレビの料理番組で日本語の言葉狩りが行われていた。”ノージャパニーズ”の動きは想像以上でイテウォンにある日本風の居酒屋「とんぼ」も余波を受けていた。
”ボイコット日本”の影響は、何の罪もない飲食店にも及んでいた。ここ数年、韓国では日本の居酒屋をイメージした店が増え、日本語で書かれた看板を見掛けることも少なくない。これまではソウルに来てまで居酒屋にわざわざ入る必要もないと思っていたが、9月のとある夜、日本で言うと東京・六本木のように外国人が多いイテウォンの街をふらついていると平仮名で「とんぼ」と書かれた店を見つけ、気になって中をのぞいてみた。
てっきり日本人が経営しているのだろうと思っていたら意外なことに迎えてくれたのは日本語が話せる韓国人女性。名前をチョ・ウンヘさんと言い、主人のカン・ナムキュさんと夫婦で5年前から始めたと流ちょうな日本語で話してくれた。
「私がとんぼが好きだから店の名前にしたの。とんぼはかわいいでしょう。もともと世界のビールを飲める店として始めたけれど、日本食が好きで、いまのような形になりました」
店内を見渡すと15席ほど。壁や台の上には大相撲ののれんや招き猫など和風な小物が飾られていた。チョさんのTシャツの背中側にはヤクルトスワローズのマークがプリントされていた。「日本にはときどき行きますよ」。
人気のメニューは6種類の鍋だとか。「一番人気はあさりの酒蒸し。鍋の値段はどれも2万ウォン、だいたい2000円ぐらい。長崎ちゃんぽんも少しスパイシーだけど、おいしいですよ。いまはウォン安だから日本人の人、もっとソウルに来てもいいのに。でも、韓国から日本に行く人、いまは少なくなった」
どうやら、この店も”ノージャパニーズ”のどばっちりを受けている様子。お客さんは西アジア人風の若者2人組のみで店内はもの静か。そのせいでもないだろうが、飼い猫は気持ちよさそうに深い眠りに落ちており、写真撮影で起こすと不機嫌そうだった。
「最近は本当に暇ですよ。お客さん、少なくなった。半分ぐらい。売り上げも半分。大変です。この街は朝まで眠らない街だからお客さんがいれば、6時から1時か2時まで、場合によってはもっと遅くまでやっていましたが、最近は早めに閉めることも多い。その分、よく寝れてます」
主人のカンさんは、つい1週間ほど前、初めて大阪に行ったとか。「炉端と串カツが気に入りました。串カツのソースが甘くておいしかった。大阪の人は親切でいい人ばかり。また大阪に行きたい」とチョさんが通訳してくれた。
束の間の交流でホッとしたが、現状は気になることが多い。ソウルの友人は「以前なら職場で今度、日本のどこに行こう、と話してましたが、いまは話せる雰囲気ではない」と同調圧力を感じるという。韓流好きの大阪のおばちゃんからは、信じられない話も聞いた。
韓国で観ていたテレビの料理番組で料理人が「ワサビ」と口にしたところ、アシスタントが気を使い、2度目に「ワサビ」と言おうとしたときに「コチュネンギ」と古い韓国語をかぶせたというのだ。まさかの言葉狩り。
「いまの若い人はほとんど知らない言葉。そんなことまで規制していたら会話が成り立たないですよ」
日に日に悪化する日韓関係。一体、どこまで行ってしまうのか。それぞれの事情はあるけれど、不買運動ではほとんどの人が報われない。
「1日も早く仲良くなることを願ってます」。救いはチョさんの明るさ。「とんぼ」夫婦の幸せはいつかきっと訪れるはずだ。
(まいどなニュース特約・山本 智行)