平成の“ホラー漫画界の女王”が令和元年になぜ? 児童虐待テーマの新作漫画を発表
昨今社会問題化している児童虐待をテーマにした漫画『サバイバー ~破壊される子供たち~』が、コミック配信サービス「まんが王国」で独占配信されている。生まれてすぐに両親から虐待を受けて育ち、解離性多重人格障害になった主人公・海里。その苦難を描く戦慄のストーリーが展開していくのだが、作者名を見てさらに戦慄した。なんとあの“ホラー漫画界の女王”として知られる、漫画家・犬木加奈子だからだ。
犬木は1990年代に少女向けホラー漫画雑誌で活躍し、『不気田くん』や『不思議のたたりちゃん』が映像化されるなど、女性漫画家としてホラー漫画界を牽引。当時の少年・少女たちを恐怖させてきたトラウマ的人物だ。ところが2000年代突入後はホラー漫画専門誌の停滞などもあり、なかなかその名前を拝見する機会もなかった。
それが令和元年に大復活。そのカムバックは嬉しくもあり、同時に恐怖でもある。しかし“ホラー漫画界の女王”がなぜ今、児童虐待をテーマにした漫画を執筆したのか。話を聞いた。
長いブランクの理由は、ホラー漫画が大嫌いになってしまったからだという。「最後にやめたときは喧嘩するように次々に連載をやめていきました。今から思うと疲れ切っていたんだと思います。そのまま母の介護に入り、漫画界は遠い遠い世界になり私はただのおばさんになって地域社会で生きて行くのだと覚悟してました」と漫画家廃業状態にあった。
そんな心境の中、母親が亡くなったのと時を同じくして漫画執筆の依頼が届く。それがギャグエッセイ『埼玉最強伝説』だった。「なぜ描こうと思ったのかというと、ホラーの依頼ではなかったからです。それが15年ぶりに描いた連載。手が動かなくて20ページに四苦八苦しました」とはいうものの、漫画家としての勘を取り戻したような感覚を得た。2017年の連載終了後、「これからどうしようかと考えていた時に、今回のウェブ連載のお話を頂きました」。それが児童虐待をテーマにした『サバイバー ~破壊される子供たち~』。自身初のウェブ漫画連載となる。
テーマとしては社会派だが、過去のホラー漫画作品と共通する“恐怖”が内包されている。「もともと人間のずるさや怖さを題材に子供に向けてホラー風に描いてきました。漫画家を休んでる間、図書館で読んだ本に書かれた虐待児の実態があまりにもショッキングで頭から離れず。今回の作品で現実に今そこにある恐怖を描こうと思いました」と狙いを明かす。
ところがある事情によって、配信時期が大幅に遅れた。「描こうと思い、打ち合わせをして構想から描き始めた頃、いきなりニュースで児童虐待が大きく取り上げられるようになりました。不思議だったのは、読んだ本と同じような事件が起きている。つまりは私の描いている漫画そのままのような事が起きているということ。それだけに、虐待のニュースが少し落ち着くのを待って配信もどんどん遅れました」。創作を凌駕するかのような暗い現実に、犬木自身も驚きを隠せない。
今回の連載をきっかけに、再び漫画家生活に入った。ファンからの熱烈な支持を肌で感じたのも大きな理由の一つだ。創作活動に特化したクラウドファンディング「FUNDIY」で新作ホラー制作プロジェクトを行ったところ、犬木の新作を心待ちにするファンから300万円以上の資金が集まった。
「ようやく昔の様にホラー漫画を描きたいと思い始めています。私らしい犬木ホラー、少し不思議なホラー。ホラーに限らずいたずらに人を傷つけるような事はいけないけれど、物語の持つ力や魅力の妨げになるような規制には首をかしげざるをえません。ホラーは奥がとても深く、人間の裏や奥底を描くことができます。どうしてみんなジェットコースターに乗りたがる?それと同じ。ホラーは読みたくなるものなんです」。犬木は令和元年に“ホラー漫画界の女王”復活を宣言する。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)