大阪からコアラがいなくなる 最後の1頭は英国で婿入り…男盛りの「アーク君」
渡英して”婿入り”することになった「アーク」はオーストラリア・メルボルン生まれ。1歳半になった2008年に天王寺動物園にやって来た。園長の牧慎一郎さん(48)が言う。
「愛嬌があって、なかなかの人気者。立派な息子をもうけ、”アークとうちゃん”としても親しまれてきました。いま12歳。コアラは20歳ぐらいまで生きるので、まだ男盛りです。若くはないけど、年寄りでもない。私と同じ48歳ぐらいですが、彼の方はイギリスでもうひと踏ん張りすることになりました」
日本で3番目に古い天王寺動物園にコアラが来園したのは1989年。メルボルン動物園から3頭が送られた。東京の多摩動物園や名古屋の東山動物園が北方系のコアラだったのに対し、こちらはやや体の大きな南方系だった。
その後、最大9頭を飼育していたが、餌となるユーカリの栽培、運搬費が高いことを理由に”橋下市政”から見直しが検討されるようになり、4年前の2015年、飼育動物の選定を協議する中で新たなコアラを飼うことを断念した。牧園長が続ける。
「選択と集中の中で、ゾウやホッキョクグマは推進、オランウータンやコアラは撤退ということになりました」
実際、アークにかかる年間の餌代は3200万円。これは園全体の3割を占めるとか。というのもコアラはユーカリの、しかも芽しか食べないが、ユーカリは気温の変化に弱く、安定供給が困難。そのため、園では「リスクヘッジを考え」大阪府や鹿児島県など全国5カ所で20種のユーカリを委託栽培してきた。
さらに、繁殖の難しさも撤退の理由となった。コアラを飼育している国内の動物園のうち、6カ所が北方系なのに対し、南方系はここと「淡路ファームパーク・イングランドの丘」(兵庫県南あわじ市)の2カ所。アークもレンタル移籍し、繁殖に貢献して来たが「2カ所では限界がある」と牧さんは話す。
大阪にコアラがいなくなるのは確かに寂しいが、アークにとっては悪い話ではないかもしれない。16年に息子「そら」が香港の「オーシャンパーク」に貸し出されたが、そのときは高齢を理由に同時移籍を断られ、のんびりと余生を送ることになっていた。そこへ、今春になって英国「ロングリートサファリパーク」からオファーを受け、繁殖にひと役買うことになったのだ。実際に送り出す側としてスタッフを現地に派遣。環境の良さを確認している。
「オスとしてはチャンスでしょう。繁殖能力があることは実証していますし、メスに囲まれて生き生きとするんじゃないですか。輸送費も先方持ち。喜んで迎えてもらえるわけですから幸せだと思います」
そんな状況を知ってか知らずか、アークはこの日もユーカリに登り、くつろいだまま。それでも別れを惜しむように見物客は日に日に増えている。28日13時半からはお別れイベントも開催予定。担当飼育員がアークとの思い出を語り、寄せ書きコーナーも設けられる。大阪のコアラの見納めだ。
(まいどなニュース特約・山本 智行)