老舗和菓子店の軒先にたたずむ黒猫 道ゆく人たちを癒す~うちの福招きねこ~西日本編~vol.7
三重県伊賀市の城下町にある「御菓子司 おおにし」は、名物の丁稚ようかんや、くノ一の形をした最中などが人気の老舗和菓子店。築130年以上の古い建物前の長椅子でくつろぎ、道ゆく観光客や通学中の生徒たちから可愛がられているのが、黒猫のクウ(7歳、メス)だ。店主で飼い主の大西弥恵さん(73)が、クウとの思い出を語ってくれた。
弥恵さん:前に飼っていた三毛猫のもも(メス、享年18歳)が亡くなって、猫はもう飼わんとこうと思ってたんですが、7年前、近くの焼肉屋さんのところで、娘が真っ黒の可愛い子猫を保護してね。うちへ連れてきたんです。
まだ生後50日くらい。最初は熊の子かと思いました(笑)。飼い始めると、そんなとこに出入りできる隙間があったん?と私たちが驚くくらい、天井やら壁と床の間やら、家の中を探検して回るんですよ。動きも俊敏でねえ。今は長めのリードをつけて、店の前の長椅子と家の中とを自由に行き来できるようにしています。店内の商品が並べてある陳列棚には近寄りません。行ったらあかんとわかってるんやと思います。とても賢い子なんです。
この子は飼い主の私にさえだっこさせないし、なでようと思ったら逃げるしで、前の猫みたいになついてくれへんからちょっとさびしい…。でも、お客さんに対してはとても愛想いいんです。
「クウに会いたくてまた来た」というお客さんはけっこうおられますね。私がクウに「わざわざ会いに来てくれたよ」というと、クウはちゃんと挨拶をしにくることが多いです。時には、お客さんの足にスリスリもします。観光客の人たちや、いつも通る生徒たちの間でも人気者なんですよ。
今年5月27日の晩。店に繋いでいたリードが緩んでいたのかほどけてしまい、首輪と短いリードを付けたまま、クウが外に出ていってしまったんです。家族総出で探したんですけど、どこにも見当たらず。翌日は大雨でね。リードが空き家とかで引っかかったりしてないかとすごく心配でした。
すぐ近所に「万吉稲荷社」という小さなお稲荷さんがあるんですが、行方不明になって3日目の早朝、娘が名前を呼びながらお稲荷さんのあたりを探していたら、たぶんお腹がすいてたんでしょう。ふだん呼んでも鳴くことはないのに、その時は「にゃ」と鳴き、居場所がわかったんです。もちろんそこも何度も探したんですよ。3日間、お稲荷さんの物陰でじっとしてたようで、見つかったときは本当にホッとしました。
亡くなった主人(晃さん)は14年前、このお稲荷さんの改修工事のとき、すごい頑張りましてん。だから、おそらく主人がクウのことを守ってくれてたんやないかなと。主人は猫好きでね。私、クウは黒いから、暗いところにいると、たまに誤って踏んづけてしまうことがあったんですわ。それでクウがびっくりして「ギャッ」と鳴くでしょ。すると、ふだんは物静かな主人やのに、そのときだけは「気をつけよ!」ときつく叱られたのを覚えています。
夜寝るときはね、この子、私が寝る布団の上のど真ん中にデンと陣取るんですよ。で、私は寝られへんから、最初、クウを避けて斜めに寝転がり、布団の端の方へじわじわとクウを押し出そうとしますやろ。すると、フーッとうなるんです(笑)。ほぼ毎晩、布団の上ではそんな攻防がありますね。可愛げないんやけど、逆にクウのそんなところが、私にとっては元気の源でもあるんです。
(まいどなニュース特約・西松 宏)
【店名】御菓子司 おおにし【住所】三重県伊賀市上野中町3009-1【電話】0595-21-1440