生年月日に「うまれたひ」…利用申込書に「やさしい日本語」を添えた図書館の思い
ひらがなにカタカナ、さらに漢字の訓読み音読み、熟語に四字熟語…と、日本語って実はすごく難しい言葉ですよね。子どもはもちろん、日本で暮らす外国人にとっても読み書きはなかなか大変です。そんな中、氏名に「なまえ」、生年月日に「うまれたひ」など、やさしい日本語の振り仮名が添えられた、ある図書館の利用申込書がツイッターで話題になっています。「素晴らしい」という評価の半面、「不十分」という声や「日本語の崩壊」を指摘する意見も。なぜこうした表記にしたのか、図書館に聞いてみました。
その図書館は、埼玉県川口市立図書館。日本語教師歴8年で、現在は東京大大学院で日本語教育や教材づくりなどを研究している佐藤理恵子さん(@nan_taan)が先月末、写真とともにツイートしたところ、これまでに約1万件の「いいね」と「これが普通になればいいのに」といった意見の一方で、「漢字の読み方を間違えてしまう」「漢字自体やさしくすればいい」などの指摘が寄せられました。
-なぜ、図書館ではこういう振り仮名にしてあるのですか?
「実は、もともと利用申込書は一般(大人)用と子ども用の2種類を作っていたんです。ですが、2006(平成18)年7月に、現在のJR川口駅前の場所に移転・オープンした際に利用案内などを一つに統一し、子どもでもわかるような表記にしたと聞いています」(市立中央図書館)
-この「ふりがな」は元々、子ども向けだったということですか?
「そうですね。その後、英語表記など何度か修正も加えられていて、いつ今の表記になったか定かではありませんが、経緯を考えるとおそらく移転の際、こういう併記の形になったのではないでしょうか。振り仮名というか、言い換えについて『正しい日本語ではない』とのご指摘もありましたが、意図としては、『子どもでも外国の方でも障害がある方でも、どなたにも分かりやすく、使いやすい図書館』を目指したいと思っています」(同)
とのことでした。川口市は人口約60万人で、外国籍は約3万6千人。県内では最も多く、全国でも有数の多さです。国籍別では中国、ベトナム、韓国が上位を占めていますが、最近では多国籍化・多言語化も進み、図書館を利用する外国人も増加。日本語を勉強している人向けの本や外国語で書かれた本も置くようになっているといいます。
全国的に日本語教室に通う外国人も増えていますが、佐藤さんによると「非漢字圏の学生さんは、例えば年齢の『齢』という字が『歯今』に見えて、『はいま』と読んでしまうなど、漢字の切れ目や似ている漢字の違いを見分けるのに苦労しています。漢字圏出身でも、中国語は基本的に一つの漢字に一つの読み方。音読み・訓読みに戸惑っている様子です」と言います。
日本語が分からなければ英語なら…と思いがちですが、2008年に国立国語研究所が全国の定住外国人1662人を対象に行った調査によれば、日常生活に困らない程度に英語ができる人は44%、日本語ができる人は62.6%。佐藤さんも実際、授業で英語で説明した際、非英語圏出身の学生から「英語は分からないからやめてほしい、日本語で教えてほしい」と言われたそうです。大学院の留学生でも「英語はついていくのが大変」と漏らしていたといい、「英語だけの説明では『英語ができる人のほうを向いていて、自分たちは置いていかれている』という印象を持つ人も少なくない。ホスピタリティやおもてなしの面からいっても、『外国人には英語でいい』という対応は、不十分ではないでしょうか」と疑問を投げかけます。
「やさしい日本語」は1995年の阪神・淡路大震災を機に、災害時に外国人にも分かりやすい日本語を-と弘前大の佐藤和之教授らが提唱し、全国に広がっています。外国人だけでなく、障害のある人や子どもも見据えた「ことばのユニバーサルデザイン」と言われることも。「例えば『左利き(マイノリティ)用ハサミ』ではなく、右利きも左利きもみんなが使えることが大切だと思います」と佐藤さん。「『やさしい日本語』には、形式の『易しさ』と気持ちの『優しさ』の2つの意味が込められています。相手の立場に立って、伝わりやすい言葉で伝えることは、コミュニケーション全般に必要なことだと思いますし、『この表記を必要としているのはどんな人なんだろう?』と想像して伝え方を考え直してみることは『やさしさ』の第一歩ではないでしょうか」と訴えます。
ついつい、言葉も自分の物差しや価値観で「分かるだろう」と思って使ってしまいがち。でも、難しい言葉を易しく言い換えるって、実はすごく頭を使いますし、本当に意味を理解しているかも問われます。もちろん言い換えは一つとは限らないはず。どうやったら、どんな人にも伝わるのか、考え続けることが大切なのかもしれません。
「やさしい日本語」を解説したホームページはこちら。http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/EJ1a.htm
(まいどなニュース・広畑 千春)