復興五輪で福島県産の食材が採用されるか 選手村の食卓に上がる基準のGAP認証とは

 「復興五輪」を掲げる東京大会。2011年3月11日に発生した東京電力福島第一原発事故による風評被害に苦しみながら、五輪選手村のダイニングでの食用として義務付けられた安全品質の認証食材「GAP」の生産に取り組む人たちがいる。実際に試食して、生産者の思いを聞いた。

 GAPとは、Good Agricultural Practice(農業生産工程管理)の略称。五輪選手村で使う食材には、12年のロンドン五輪以降、食品安全など100項目以上の審査基準をクリアしたGAP認証食材であることが義務付けられている。今年9月、認定NPO法人GAP総合研究所代表理事の武田泰明さんが社長を務める農家直営のレストラン「グランイート銀座」(東京)で福島産GAP認証食材の試食会が行われ、米や桃、アスパラガスやキュウリ、トマトなど厳選された食材27点が料理として並んだ。

 その中でも、皮のまま焼いた「玉ねぎのロースト」が、究極のシンプルさで印象に残った。かみ締めるほどに自然の甘みが口の中一杯に広がる。武田さんは「オーブンで時間をかけて焼いているのでジューシーで甘さが残っている。一切、調味料は使っていない。素材の味です」と太鼓判を押した。

 出品者は福島県立安達東高校(二本松市)。総合学科の専門系列にある農業コースの生徒たちが生産した。同校2年の押山真子さんと渡辺陽菜さんは「東京五輪・パラリンピックに私たちが栽培した農産物を食材として提供したいということを共通の目標とし、認証に向けた取り組みをスタートさせました。GAPへの理解を広める活動を継続したい」と意欲的。タマネギのほか、ナス、ネギ、大根も認証された。押山さんは「選手を応援したいという気持ちと、食べて頑張ってもらいたいという気持ちがあります」と思いを語った。

 また、今年7月に小松菜とホウレンソウでGAP認証を取得した「浜の野菜株式会社」(いわき市)の代表取締役・根本和彦さんは「生産に従事しているパートさんや従業員の方々の意識がガラッと変わった」と明かす。現場にとっても大きなモチベーションになっている。

 福島県は五輪の競技会場にもなる。ソフトボールの開幕戦が行われるのだ。ソフトボール元日本代表の松岡恵美さんと増淵まり子さんは五輪選手村への思いを語った。松岡さんは「シドニーとアテネで選手村に入り、毎日張りつめている中で食事が楽しみだった。日本食が食べられるとパワーになる」、増渕さんは「各国の料理が全部無料で食べられる選手村の食堂は夢の場所」と思い出を語った。

 アトランタ五輪のサッカー男子日本代表の前園真聖さんは「サッカーの場合、ずっとホテルで過ごしたので、選手村を知らず、現地の食材でなるべく火が通ったものを食べたりして大変だった」と振り返り、「福島の食材を世界に発信できれば」とエールを送った。

 選手村のメニュー選定について、大会組織委員会の担当者は当サイトの取材に「IОCのメニュー承認が11月。そこから一気に決まるということはない」と年内から来年にかけて少しずつ決まっていくことを示唆。さらに「決まったからといって、大々的に発表をするものではない」とした。

 その中で、選手村のメニュー選定は進められている。「東京2020大会選手村メニューアドバイザリー委員会」はアスリート、料理関係者らで構成され、シドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんも委員として名を連ねる。同委員会の「考慮が必要となる点」では、日本の食文化の発信、東京都産食材や各地の地域特産物の活用などのほか、「復興の発信」も掲げられ、福島発の食材を後押しするかもしれない。

 武田さんは「食材を作っている農家の方の努力の結晶が選手村を支える力になっている。安全性を確保された食材を福島が出せれば。世界中から約2万人集まる選手たちに『東京の選手村はメシが最高だったね』と語り継いでいただければうれしいです」と期待を込めた。

(デイリースポーツ・北村 泰介)

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