「放浪記」の記録を上回る3000回公演 京都発のノンバーバル舞台「ギア」がすごい

「演劇でもミュージカルでもサーカスでもない、新感覚エンターテイメント」を掲げ、京都の専用劇場で公演を続けるノンバーバル(非言語)パフォーマンス「ギア -GEAR-」が、10月20日18時の回で前人未踏の3000回に到達する。日本演劇界のロングラン記録としては、あの「放浪記」(森光子主演、2017回)や「Endless SHOCK」(堂本光一主演、2019年4月時点で1700回)をも上回る、とんでもない数字である。劇場は100席しかなく、動員数ではもちろん「放浪記」などには遠く及ばないものの、2012年の初演から毎回のように細かな改良を重ね、今なお進化を続けている。

「ギア」は劇場の運営やイベントの企画・制作を行う「有限会社一九二八」が主催。専用劇場は京都・三条のビル「ART COMPLEX 1928」3階にあり、現在は基本的に火・木曜以外のほぼ毎日、昼と夜の1日2回公演をこなしている。

演劇やダンス、パントマイム、マジックなどの要素を組み合わせたパフォーマンスが特長。荒廃した未来のおもちゃ工場を舞台に、人間型ロボット「ロボロイド」たちの可笑しくも少し切ない騒動が、日本トップクラスのスキルを持つキャストたちの超絶パフォーマンスと、幻想的な光と映像の演出によって、台詞を全く使わずに繰り広げられていく。世代や国籍を問わず楽しめるため、客席には小さな子供や外国人旅行者の姿も。歓声や笑い声、大きな拍手が飛び交う一体感と臨場感は、この規模の劇場ならではと言える。

統括プロデューサーの小原啓渡さんは、ニューヨーク発のパフォーマンス「ブルーマン」などを参考に、日本でもロングラン公演の文化を根づかせようと考え、2010、11年に試験興行を大阪や長崎、京都で実施。客席の反応を踏まえて内容をブラッシュアップしていき、2012年4月1日、「ver.1.00」としてロングラン公演を開始した。公演の度に課題の洗い出し、検討、改良などを重ね、今は「ver.4.60」にまでなっている。

「最初は集客に苦労しました」と小原さんは振り返る。損益分岐点が約80人なのに、客席に10人、20人しかいない時期が長く、他の事業の収益を「ギア」につぎ込む我慢の日々が続いたそうだ。

「アンケートの満足度は常に高かったので、頑張っていればいずれお客さんが来てくれるのはわかっていました。どうにか続けていけそうだ、と手応えが感じられるようになったのは、始めて3年ほど経ってからです」

折しもその頃、世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」で、「ギア」がなんと日本国内の人気観光地トップ20にランクイン。以来、同サイトなどでは一貫して高評価を獲得し続けており、外国人の観客も目に見えて増えていった。

キャストはマイム、ブレイクダンス、マジック、ジャグリング、ドールの5役にそれぞれ5~6人ずつ在籍。組み合わせは日によって違うため、5人全てが同じ顔ぶれになることは滅多にない。出演者が違うことによる“化学反応”は、何度も見ているファンにはたまらないらしく、100回超のリピーターはざらで、中には500回以上通い詰めている人もいるらしい。

ちなみに「ギア」に演出家はおらず、クレジットされている「オン・キャクヨウ」とは「御客様」のこと。アンケートを毎回徹底的に分析してキャスト、スタッフで共有し、改善点があれば必ず直して次に反映するという努力を欠かさず続けているという。10月16日の公演終了後に劇場の一角を覗いてみたら、さっきまで舞台に立っていたキャストが全員、本当にアンケートを見ながら公演の録画をチェックして意見を交わしていた。これをこつこつ3000回?す、すごすぎるやんけ…!

3000回目となる20日18時の回は、残念ながら既にソールドアウト。10月までの来場者数は累計23万人ほどといい、小原さんは「100万人くらいまではいきたいですね。これからもできる限り続けていくので、どのジャンルにも属さない舞台を是非、京都まで見に来てください」と呼び掛けている。

■「ギア -GEAR-」公式サイト https://www.gear.ac/

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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