「陰険な手で虎視眈々と」「対抗馬もなく長期政権」…クマの「ボス列伝」は人間社会の縮図だった
痛みを知っているからこそ穏やかで、争いも最小限に抑える。従っているふりをしながら、いつも虎視眈々と下剋上を狙うしたたか者。かと思えば、リーダーとしての品性は物足りないけれど、対抗馬もおらず歴代最長を伺う長期政権に-。どこの会社か組織か、はたまた国の話か…と思ってしまいますが、実はこれ、北海道登別市にある「のぼりべつクマ牧場」のクマ模様。SNSでは「任侠映画か」などと話題になりましたが、同牧場に詳しく聞いてみました。
話題になったのはオスが暮らす第1牧場の「歴代ボス紹介」。同牧場では毎年発情期の5~7月にボスの座を巡る争いが起き、飼育員が点数化してボスを決めます。歴代最高齢でボスの座に就いたあるクマは「若いときに暴れん坊だったが、ボスを意識する頃には『和』を重んじ第一牧場をまとめ上げた」。一方で「いつも虎視眈々として不意打ちの機会を狙い、後ろから陰険に争うという戦法でボスになったものの、小競り合いが絶えず、牧場も戦国の世と化した」ボスも。温厚な“クマ格者”もおり、その模様が想像をかき立てます。
-どなたが書いてらっしゃるんですか?
「15代目までは学芸員ですが、16代以降は飼育員が書いています。任侠映画好き?いえいえ、特にそういうわけでは。ただ、クマも、人間のように、ケンカっ早いとか、他のクマが揉めていても隅っこで巻き込まれないようにしているとか、ストレスに弱いとか性格があって、事実を見たまま、ありのままに書いているだけなんですよ」(同牧場広報担当者)
-「陰険」とか「和を重んじる」とか、なかなかの表現ですね。
「横からエサを奪い取るとか、他のクマに後ろからすり寄って行って襲うとか陰険な性格が目に余っていたんでしょうね。ヒグマは本来ニホンザルのような群れ社会を作る動物ではありませんが、それでもボスはただ強いだけじゃなく、ケンカの仲裁もするんです。無用な争いが減り、その結果、来園したお客様にも楽しんでもらうことができます。それがいわば、『ボスの品格』ですね」
-「生き様が既にドラマ」と話題になったボスもいました。
「17、19代のサチオですね。幼い頃、何らかの原因で母とはぐれて“孤児”となり、道端で野良ネコに襲われていたところを保護されたんです」
-ネコに???
「おそらく巣穴から出てきたばかりだったんでしょう。その頃は体重も4~5キロですから、気性の荒いネコなら簡単に襲えると思います。サチオは人工哺育を受け、釧路市動物園に保護収容された後、うちに引き取られました。大人になってからも優しいクマで、若いクマの信頼も厚く仲裁力もあり、抜群の安定感でした。今は別の場所で静かに余生を送っていますよ」
-現在のボスはどうでしょう。
「サチオの後、しばらくボス不在の状態が続いたんですが、2013年からは20代目の『ダイキチ』がボスです。ただ、力は強いんですがケンカっ早く、仲裁行動もあまりない。ボスの器としてはまだまだで『恐怖政治』に近いですが、他に代わるクマがおらず、就任年数7年で歴代2位のゴンゾウに並び、歴代1位で9年連続記録のマツに近づくほど。でも欲を言えばもっと『格』を付けてほしいですね…」
とのことでした。なんとも含蓄に満ちています。ちなみに、オスは1対1で争うのに対し、メスは集団同士でやり合うのだそうです。ボス以外のクマにも「生粋の一匹狼」とか「どこか油断できないボスの右腕」-といった紹介が記され、HPで見ることもできます。
もちろん、クマのお話です。
■のぼりべつクマ牧場 https://bearpark.jp/
(まいどなニュース・広畑 千春)