「神戸ローストショコラ」優香&バカリズム渾身の神戸弁CMに神戸っ子「モヤモヤ」…そのワケは?
「…なんで?…なんで神戸なん?」「これも神戸のやん!!」
「その人はめっさまぶしかった」
「せやから…神戸」「神戸やねん」
「濃厚やのにぃ、後味さらっとしとぉやん」
昼過ぎのパティスリーを舞台に、女優の優香さんと、タレントのバカリズムさんが出演する江崎グリコの「神戸ローストショコラ」のCM。「神戸弁初挑戦」という2人が10時間にわたる方言指導を受けてアテレコ収録し、9月下旬に京阪神地域でオンエアされました。ネット上には直後から歓迎の一方で、「違和感がすごい」という神戸っ子の声が続々と。そのモヤモヤの原因を探ってみました。
■「めっさ」は播州、「やん」「せやねん」は大阪弁??
3世代以上にわたり、神戸で暮らす生粋の神戸っ子という60代男性は「率直に言うたら、純粋な神戸弁は入ってないわ」と首を横に振ります。「例えば『~しとー(しとぉ)やん』も、神戸なら『~しとー』で終わる。『やん』『やねん』を付けるのは大阪弁や」とし、さらに「『せやねん』も大阪弁。神戸は『そやねん』。『めっさ』は播州弁で、神戸の人は『めっちゃ』言う人の方が多い」と指摘します。
“移民組”の記者ではらちが明かないので、方言に詳しい甲南大学文学部の都染直也教授(社会言語学)に聞きました。
-「違和感」はどこからくるのでしょうか。
「その男性が指摘されているのはその通りです。他にも数点ありますが、うちのゼミ生もほぼ全員違和感を感じたようです。ある男子学生は『神戸弁はここまでコテコテじゃない。もっとマイルド』と言っていましたが、この『コテコテ』こそ神戸人にとっての大阪のイメージ。一方、播州は姫路のけんか祭りに代表されるように荒々しいイメージがある。他所の人には同じ関西弁に聞こえますが、『播州とも大阪とも違う。もちろん京都は全く別物』というのが、神戸人の言葉に対するアイデンティティなんです」
-「神戸弁自体よく分からない」という声も耳にします。
「神戸弁の代表格は『~しとー』でしょうか。ただ、そもそも神戸は150年前の開港以来、わずかな期間で150万都市にまで発展した新しい街。初期には播州の人が多く移り住んだので、神戸弁のベースは播州弁で、それが大阪弁と融合した、と考えられます。神戸市東灘区の住吉川にその境がある、という研究結果もあります」
-大阪や播州に比べ「東京弁っぽい」という印象もありますが。
「そうですね。どこの地域でもなんですが、若年層では東京言葉化も進んでいて、例えば『あつう(暑う)なった』が『あつく(暑く)なった』など、文字上は東京言葉と変わらず、アクセントだけ違う-という例が増えています」
■方言は「自分がスタンダード」
-指導の先生の下、10時間も練習されたのに…方言って本当に難しいですね。
「神戸の場合、指導された方がどの地域のご出身かで違いますし、そもそも方言は話す人それぞれが『自分の言葉が標準』と思い込んでいます。ですから、そこからずれると『おかしい』と感じてしまうんですよね。後は、バカリズムさんも優香さんも神戸出身ではないと皆さんご存知なので、その先入観で見てしまうのかもしれません」
とのことでした。ただ、都染教授によると、昔の神戸っ子は、自分たちの言語を「方言」と捉えていない節もあり「大阪や京都のように方言をアピールするお土産もなく、商品価値は低いと思われていたのが、最近では少しずつ認知され、こうした神戸の『上品』なイメージとリンクしたCMも作られるようになったのは、画期的」とか。先の神戸っ子も「人生初でも神戸弁を知って、挑戦してくれたことがうれしい」と目を細めています。
地方でも、どんどん方言が廃れている時代。せっかくなので、チョコを片手に神戸に来て、関西弁との「違い」を現地で味わってみませんか?
(まいどなニュース・広畑 千春)