徳之島で保護され、神戸のおしゃれカフェに…ヒトのやさしさを知り、表情豊かになった「看板犬」

 こんなにかわいい看板犬がいるお店、犬好きなら誰でも通いたくなるに違いありません。神戸市灘区にあるSOWELU(ソエル)は1階がカフェ、2階がギャラリー&レンタルスペースのおしゃれなお店。緑とかわいい雑貨にあふれた居心地のよい空間が広がっています。

 看板犬の名前も「ソエル」。鹿児島・徳之島で生まれました。

「避妊・去勢手術が一般的ではない島で、放し飼いで飼われている犬から生まれた子犬のうち、元気なオスはイノシシよけの番犬として需要があるようですが、メスは捨てられることが多いと言います。そんな子犬たちが畑で群れを作って暮らしていると、今度は島の人から畑を荒らす“害獣”扱いを受けるそうで…」

 徳之島の事情を教えてくれたのは、島の保健所から多くの犬を引き取ってきた「犬の合宿所in高槻」代表の伊藤順子さん。ソエルちゃんもそのうちの1頭で、2016年7月に仲間の4頭と一緒に大阪へやって来ました。

 移動当日、トイレのため合宿所の庭に出してもらったソエルちゃんは、切り落とされた木の枝が山積みになったところに潜り込んで出てこなくなったそうです。他の子たちが犬同士で遊びを始めたり、茹でたてのレバーをもらったりして夕方、家の中に入っても全く出てこず。結局、翌朝まで“やぶ”の中だったことから、「こやぶちゃん」という仮の名前を頂戴しました。

 SOWELUのオーナーである伊田昌玄さん・美沙さん夫妻とこやぶちゃんの出会いは、ペットの里親募集サイトがきっかけでした。美沙さんの実家で飼っていたコーギーが16歳で亡くなり、「次に飼うなら保護犬を」と考えていた二人。ペットロスの状態から気持ちが落ち着くまで約1年かかりましたが、その後、サイトを半年ほど見続けて目に留まったのがこやぶちゃんだったのです。

「犬の合宿所さんに2匹、気になる子がいたんです。両方とも“短足”でした。コーギーを飼うのはつらくてできなかったけど、やっぱり似ている子に目が行きましたね。会ってみると、もう1匹はとても怖がりで、お店に連れて行くのは難しいかなと。それでソエルのトライアルをお願いしたんです」(美沙さん)

 前年の15年3月にカフェをオープンしていた夫妻は、できれば愛犬をお店に連れて行きたいと考えていました。長時間のお留守番は避けたかったからです。その点、ソエルちゃんは看板犬にピッタリ。

「もともとは野良ちゃんですから、破天荒な性格を想定していたんです。でもソエルは本当に賢くて、こちらの言っていることを理解しているようでした。お店にいられるか様子を見ながらと思っていたのですが、すぐにお気に入りの場所を見つけて寝ていたし、子供にさわられても受け入れていたので、これなら大丈夫だなと」(美沙さん)

 ソエルちゃんの“定位置”は、店に入ってすぐ右側の机の下。お気に入りのブタのぬいぐるみを枕に寝ているか、起きていればクリクリお目めで見上げてくれます。

 ソエルちゃんを飼い始めてから、カフェを犬同伴OKにしました。店の構造上、厨房とカフェスペースが離れていたため、衛生上問題なしと行政の許可も下りました。今ではソエルちゃんに会うのが目的だったり、犬連れのお客様も増えてきたそうです。

「遠くから来てくださる方もいらっしゃいます。ソエルの“塩対応”に引かれると(笑)。なでられるとお腹を出すこともあるんですけど、駆け寄ったり飛びついたりしないし、無反応なこともあるので。でも、大好きな常連の男性が来ると態度が一変するんですよ。そのときだけは特別に、横に座らせていただいています」(美沙さん)

 昌玄さんは最初、ソエルちゃんに「表情がなくて感情が読めない」という印象を持っていたそうです。「そんな犬は初めてで違和感があった」と。でも時間の経過とともに、表情が豊かになってきたと感じています。

「だんだん目が合うようになってきましたし、うれしい変化ですよね」(昌玄さん)

 実はこれ、保護犬を迎えた里親さんの多くから聞く言葉です。ヒトのやさしさを知らなかったり、逆につらい目に遭わされてきた犬たちが、愛情を受けることで変化していく--それを実感できるのが、保護犬を迎える魅力のひとつかもしれません。

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