前代未聞の船上パーティー 神戸発の自主映画「みぽりん」の人生を賭した戦いは続く
一般公開から早2カ月、全編神戸で撮影されたB級ホラーパニックとんちきアイドル映画こと「みぽりん」の勢いが、止まるようでなかなか止まらない。地元神戸の元町映画館で1週間限定上映した後は、大阪、京都と公開館を移しながらファン層を少しずつ拡大してきた。11月1日からは、神戸が誇るご当地シネコン「OSシネマズ神戸ハーバーランド」での上映がスタート。さらに2日夜には、神戸港で船を貸し切りにして主演女優の誕生日を祝うという前代未聞のイベントまで敢行してしまった。「みぽりん」は一体どこへ行こうとしているのか。
「みぽりん」は神戸在住の松本大樹監督の長編デビュー作。六甲山にある実在の山荘を舞台に、歌が下手な声優地下アイドル神田優花と、彼女を監禁した謎のボイストレーナーみぽりんとが繰り広げる奇妙な騒動を描いている。新旧アイドル観の激しい相克や、異様なテンションで疾走するラスト10分の衝撃、そしてスタッフやキャストが総出で続けるビラ配り、舞台挨拶などの地道なPR活動が話題となり、「みぽらー」と呼ばれる熱烈なファンが誕生。SNSでも連日盛り上がりを見せている。
船上パーティーは、初のシネコン上映を盛大に喜ぶと共に、みぽりんを演じた垣尾麻美さんの40回目の誕生日(11月1日)を祝うために企画された。遠方から足繁く劇場に通い、時には宣伝の手伝いすらもこなす筋金入りの「みぽらー」たちに日頃の感謝を伝えるのも、開催理由のひとつという。
貸し切りにしたのは、神戸港中突堤中央ターミナル前を発着する「ファンタジー号」。公式サイトによると、全長32m、152トン、定員300人の立派な観光船である。例えばここ数年、ハリウッド大作や邦画のメジャー作品が大阪の道頓堀川で船を使ったプロモーションを行うのはよく聞くが、「みぽりん」のような自主制作映画が神戸港で船をチャーターするなど異例中の異例。しかも報道関係者が私以外に見当たらないので、プロモーションとしてはほとんど機能していないと言っていい。松本監督に真意を質すと「応援してくださる皆さんに、いい思い出を作ってもらいたい。その一心です」などと殊勝な言葉が返ってきた。うーん、酔狂。
さて午後6時。
船着き場には、「みぽりん」の巨大バナーが掲げられたファンタジー号が停泊中で、どこからともなくサックスのムーディーな音色が聞えてくる。どうせ適当にCDでも流しているのだろうと思いきや、なんと「みぽらー」の塩ヤンさん(@norisioyan)による生演奏なのだった。塩ヤンさんは音楽教室に通い始めてまだ1年目だが、「『みぽりん』にはいつも楽しませてもらっているので、その恩返しがしたくて」と笑顔を見せる。
主役の垣尾さんは、出港直前にドレスアップして登場。早速スマホやカメラに取り囲まれ、「おめでとう!」「かわいい!」と祝福を浴びた。参加した45人の前でマイクを握った垣尾さんは「こんなにもたくさんの人に集まってもらえて幸せです。ありがとうございます」と感無量の面持ちで挨拶。会場では垣尾さんの秘蔵映像や貴重な「みぽりん」の稽古風景、メイキング映像などが上映され、「みぽらー」たちが目を潤ませて見入っていた。
ケーキを食べたり、撮影会を楽しんだりしているうちに、1時間弱のクルーズはあっという間に終了。最後に「自分は昔から人見知りで、友人も少ない。でも『みぽりん』に関わり、こんなパーティーまで開いてもらったことで、今までの自分の世界がいかに狭かったかということを痛感した。このご縁をこれからも大切にしたい」と垣尾さんが改めて礼を述べると、温かな拍手が送られていた。
下船した「みぽらー」たちは、息つく間もなくOSシネマズ神戸ハーバーランドに直行。いつものように夜の回の上映を楽しんだという。
ちなみにOSシネマズ神戸ハーバーランドでは現在、神戸が生んだ怪作「みぽりん」を大プッシュ中。出演者の写真や撮影に使用した衣装などを展示するコーナーを設けているほか、ロビーの壁面には特大ポスターまで掲示するという、ちょっと心配になるほどの肩入れぶりで注目を集めている。
「みぽりん」は今後、関西のマサラ上映の聖地とも言われる尼崎市の塚口サンサン劇場(11月8日~14日)や、東京の池袋シネマ・ロサ(12月21日~1月10日)での上映が控える。松本監督は「このやり方でどこまでやれるのかわかりませんが、地方のインディーズ映画でも劇場に人を呼べるということを証明したい」と意気込んでいる。
(まいどなニュース・黒川 裕生)
■「みぽりん」公式サイト https://crocofilm-miporin.com/