秘伝レシピで台風被害の農家支援 南仏在住のシェフらが公開

台風19号で大きな被害を受けた農家を支援しようと、シェフやパティシエらが被災地の果物や野菜を使い「企業秘密」ともいえる自らのレシピを公開する動きがSNS上で広がっている。呼びかけたフランス・ニース在住のシェフ神谷隆幸さんは、2016年に80人以上が死亡したテロ事件で店の移転を余儀なくされた。「今も花火の音が怖いし、何か大きな力に大切なものを奪われる苦しみは痛いほどわかる。被災地の食材を美味しく食べて、農家の方を支援できる形があれば」と話す。

 ツイッターで「#被災地農家応援レシピ」のハッシュタグで広く情報が拡散されている。

 神谷さんはニース旧市街でレストランを営む傍ら、妻のクレールマリさんとオンライン料理・菓子教室を主宰。妻の生徒が作ったフランスの伝統菓子「タルトタタン」のツイートを見ていると偶然、台風19号で長野市赤沼のリンゴ農家「フルプロ農園」が大打撃を受けた記事がタイムラインで流れてきたという。「それならそのリンゴを使えばいいのでは」と、先月23日「被害に遭った農園のリンゴを買ってタルトタタンを作ってくれたらレシピを渡したい。来年分の予約でも力になるはず」と呼びかけたところ、次々に反応があり、日本全国のシェフやパティシエらが続々とリツイートし、さらに「#被災地農家応援レシピ」としてお菓子にとどまらず自らのレシピを公開。1日に100キロのリンゴが売れたこともあったという。

 賛同した兵庫県尼崎市の洋菓子店「リビエール」の西剛紀さんは、公開レシピを使った料理教室も計画しており「まずは動きが広がってくれることが大切」と話す。神谷さんは「フランスにいるので、日本で何かあるたび『ああ、自分は無力だ』と思ってきた」といい、「シェフにとってレシピは自分の大切な一部。それでも、何かしたかった。自分たちができるのは料理だけですが、それも農家の方がいなければ叶わない。遠くても、一人でも何か起こせるのだと思った」と話す。

 一方、フルプロ農園代表の徳永虎千代さん(27)は今月2日、初めて神谷さんらの動きを知った。農園は千曲川の堤防決壊地点に近く、長野新幹線車両センターの隣にあった畑を始め約4ヘクタールの畑のうち8割が浸水。リンゴは廃棄処分になった。無事だったのは通常の1割ほど。それも暴風で傷が付き、普段よりも「訳あり品」の割合が大幅に増加。梱包資材も水没し、被害額は少なくとも1500万円に上る。徳永さん自身は無事だったが、決壊地点から約2キロの地点にあった父の自宅は深さ2.5メートルまで水没。父はヘリで救助され、今も避難所暮らしを続けているという。

 脱サラして農業を学び直し、曽祖父から続く農園を継いだ。3年前から収穫まで葉を落とさず完熟させる「葉とらずりんご」の栽培に挑戦。糖度を安定させるため、こまめに日当たりの調整をし、ようやく収穫時期を迎えていただけに「絶望的な気持ちになった」というが、シェフらの思いを知り「大切なレシピなのに、本当にありがたい。事業の再建にもつながり、心強い」と話す。

 「このあたりは昔から水害と闘ってきて、水に強いリンゴの栽培が広がった」と徳永さん。今回被害に遭ったリンゴの木も「春には花を付ける」と専門家に言われたといい、「来年からはまた元気なリンゴを届けたい」と前を向く。

 日本では傷がついた野菜や果物は敬遠されがちだが、「フランスではもっと農家との距離が近く、形が悪くても普通に売られている」と神谷さん。台風19号とその後の豪雨で、千葉県でも落花生やレタス、カブ、ネギ、大根、ニンジン、キャベツに被害が出ていると聞き、「そうした商品を買ってくれる人との販路が広がれば、もっと農家も料理人もお客様もハッピーになるのでは」と力を込めた。

 フルプロ農園のリンゴはホームページ(http://www.frupro.jp/)からのほか、「食べチョク」(https://www.tabechoku.com/)で購入できる。

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