水谷修氏「10月31日、神戸市教育委員会は、自ら崩壊した」教員間暴行問題への対応で
神戸市立東須磨小学校の教員間暴行・暴言問題で、神戸市教育委員会が加害教員4人を「分限休職処分」とし、給与を差し止めた。有識者の職員分限懲戒審査会は「改正条例の適用は不相当」として「待った」をかけたが、4人の給与差し止めを急ぐ当局は世論を盾に押し切った格好となった。教育家の水谷修氏はこの対応に対して異論を唱えた。
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10月29日に神戸市議会は、神戸市立東須磨小学校での対教諭加害事件の加害側4教諭に対して給与を差し止める分限休職処分を条例の改正によって決定。それを受け、神戸市教育委員会は31日、臨時会を開き、加害教諭4人を無給の分限休職処分にすることを決めました。これは、戦後の民主主義教育に対する冒涜(ぼうとく)であり暴挙です。
教育委員会は、戦前の国家による統制教育に対する反省から、それぞれの自治体がその中に組織し、しかも自治体からの関与を抑えるために作られた監督官庁から独立した行政権を保護された委員会です。当然、その職員である教諭も、自治体からの直接の関与を受けることなく働くことのできる権利を有しています。それが、戦後の民主教育を守ってきました。
しかし、今回、神戸市教育委員会は、その大切な教育の独立という大切な権利を自ら捨て去りました。そして、行政にひれ伏しました。まさに、教育の行政による管理、支配という最悪の先例を作ってしまいました。歴史に残る暴挙です。
確かに、今回の事件において、4人の加害教諭が週刊誌やメディアで報道されているようなことをしていたとしたら、それは、許されることではありません。しかし、それに対して、教育委員会は、事実関係をきちんと調査し、それをきちんと公表していません。確かに、第三者委員会は、組織されました。でも、それは、客観的な事実把握のためのものであって、それに先だって、まずは、教育委員会は、被害教諭や関係者からきちんとした事実関係を把握し、また加害したといわれる4教諭からも、その事実について事実確認する義務があります。
今現在の報道では、それがなされたのかどうかわかりません。ましてや、加害したのが4人だけだったのか、被害者が1人なのか。周りにいた他の教諭は、知っていたのか、管理職は、教育委員会は…。そんないい加減な状況の中で、4人のみを加害と決め、このような処分を、独立した組織の、自分の大切な仲間に対して議会で決定することを許す。あり得ないことです。
その背景には、メディアやネットにおける加害したと言われている4人の教諭に対するリンチがあるでしょう。これも許されることではありません。事実関係や背景もわからないまま、この4人を袋だたきにすることは、それ自体が、まさにいじめいやリンチです。法的にも許されることではありません。きちんとしたすべての状況が明らかになるまで、控えるべきです。
でも、これも、神戸市教育委員会が、何もしていないからでしょう。なぜ、このようなリンチに対して、それを止めないのか。なぜ、この4人を、市議会が、市長が、勝手に処分することに異議を唱えないのか。私には、理解できません。この4人だけを、裁いて、責任逃れをしたいのだと取られてもしょうがないでしょう。
最後に付け加えます。この事件を、「いじめ」と書いている、読んでいる人たちに言いたいことがあります。今までの報道がすべて事実ならば、今回の事件は、「いじめ」ではなく、法的に裁かれるべき「犯罪」です。「いじめ」ということばを、安易に、わかりもしないで使わないでください。このような行為を、子どもたちが「いじめ」と理解したら大変なことになります。