雪の天気予報で子猫の運命が変わった! 「キカイダー」に似た毛色のサビ猫
あの日の天気予報が雪でなかったら、小さなサビ猫が朋子さん一家に迎えられることはなかったのかもしれない。
米国・ソルトレイクシティー(SLC)に住む朋子さん宅のウッドデッキに、茶系と黒のまだら模様の子猫がちょこんと座っていたのは、9年前の10月初旬。家の中にいる2匹の猫に興味を持っている様子だった。子どもたちに呼ばれた朋子さんは気になりながらも「家の中に入れたらおしまい」と心を鬼にして「猫に近づかないように」と言い渡した。
だが、その日は夜から雪になる予報。海抜1400メートルほどの高地に位置するSLCは、雪が降らなくても夜は急激に気温が下がって冷え込む。「かわいそうだ」と子どもたちに泣かれた朋子さんは「じゃあ、捕まえておいで」と折れた。
外に出てきた2人の子どもに驚いた子猫は、庭の物置の上に逃げて動けなくなったが、息子さんが無事に捕獲。めったに野良猫がいない地域だけに、ご近所にいなくなった猫がいないか確認し、子猫は朋子さんのお宅に保護された。
ただ、それは、あくまでも雪をしのぐための緊急措置。朋子さんのご主人はそれほど猫好きというわけではなく「2匹以上はもういらないな」という反応。いったん、預かって保護施設に連れていくのが前提だった。しかし、わずか数日のうちに子猫の運命は変わったのだ。
小さな顔を半分に分けるように真ん中に黒い毛の帯がある個性的な毛色のサビ猫。朋子さんは、猫と対面したときのご主人の言葉を懐かしそうに明かす。「『雑巾猫』が第一声で、『誰かに似てる、キカイダーだ!』って」。1970年代に人気を集めた特撮変身ヒーローの名前を挙げたのだという。
捕獲された直後はキャリーの中で暴れていた子猫だったが、暖かい室内、人のぬくもりに心を開いたのか、朋子さん一家、特にご主人に慣れた。「2匹以上は…」と話していたご主人も、心動かされたのだろう。「『こんなキカイダーみたいな雑巾猫、誰ももらい手がつかなかったらかわいそうだし、ウチで飼うか』って言ってくれて。なんだかんだ言ってかわいいと思ったんでしょうね」
獣医さんに「生後7週間ぐらい」と言われた雌の子猫は「まお」と名付けられた。息子さんが学校で習っていた中国語で「猫」は「MAO」。ちょうどフィギュアスケートの浅田真央さんが活躍し始めた時期とも重なり、周りからは「真央ちゃんと一緒の『まお』ね」と覚えてもらった。
まおちゃんは10歳となった今も寂しがり屋で甘えん坊の人好き。家族の後を右に左についてまわっては、おしゃべりしてくる。呼ばれれば必ず返事もする。「犬みたいなんです」と朋子さんは笑う。先住猫2匹に対しても大好きモードは全開。時折「しつこいんだよ」とばかりに先輩から「シャーッ」と攻撃されるのも愛嬌だ。
かなりの食いしん坊なのは、野良時代にひもじい思いをした名残だろうか。お肉には目がなく、夕食の残りものをうっかりテーブルの上に置いたままにしていると、鍋やお皿からお肉が食いちらかされているのを朋子さんが見つけることに。まおちゃんは気まずそうに逃げていくのだという。
9年前と同じように冬の訪れが早いSLC。雪になりそうな空は、小さかった頃のまおちゃんを思い出させる。「これも縁なんでしょうね」。一家に癒やしをもたらし、愛されるまおちゃんとの出会いを朋子さんはかみしめている。