お店のキャリーケースに1年間閉じ込められていたアメショー 初めてだっこできるようになるまで
ポルトガル語で「幸せ」という意味の名前を持つSorte(ソルテ)ちゃん。 アメリカンショートヘアの男の子の猫ちゃんです。 静岡県の榊原さんのお家にやってきて、もうすぐ2年になります。お家にはほかに、弟分の猫ちゃん1匹にワンちゃんが2匹。そしてインコが10匹いるといい、とても賑やか。弟分の猫ちゃんと一緒に遊ぶのが大好きで、おやつに食べる「ちゅーる」も大好き。元気いっぱいなSorteちゃんですが、お家にやってきたときは、まったくの無表情で、榊原さんが触ろうとすると部屋の隅っこで固くなっていたそうです。
Sorteちゃんは、生まれてから1年ほど、ペットショップで過ごしていました。姿勢を変えることもままならない、小さなキャリーケースの中に入れられていたといいます。「ケースの中で、ずっと伏せの姿勢を強いられていたようで、日常を過ごすための筋肉がついていませんでした。家に来たころは、高いところに上ることもできませんでした」
Sorteちゃんはそういう癖なのか、口から舌がよく出てしまう猫ちゃんでした。そのため、売り物にならず、繁殖に使われることもなく、閉じ込められていたのです。
ペットショップで殺処分されそうになっている猫を保護することに関心を持っていた榊原さん。気になっていたお店に行くと、店主から、まもなく処分するかもしれない猫がいることを聞きました。その場で連れて帰ることを決断、Sorteと名付けて飼い始めました。人間のことを怖い存在だと思っていたため、榊原さんはことあるごとに、名前を呼びながら、やさしく体をなで続けました。そして、あなたのお家はここであること、Sorteちゃんがお家にいてもいいのだということを伝え続けたといいます。
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Sorteちゃんの閉ざされた心の扉を、まず最初に開けたのは、お家で飼われていたワンちゃんたちでした。「Sorteと犬たちがドア越しに鳴きあうんです。そこで思い切って一緒にしてみたら、まるで子どもがお母さんのとこに行くように駆け寄って…寄り添いながら、一緒に寝たんです」
その後、お家には、スコティッシュの男の子も弟分としてやってきました。パチンコ屋さんの駐車場にダンボールに入って捨てられていたといいます。Sorteちゃんにとっては、初めて一緒に過ごす猫ちゃんです。猫同士の関係をどうやって築くのだろうか…最初は心配でしたが、すぐに打ち解けたそうです。
榊原さんが初めてSorteちゃんをだっこできたのは、お家にきてから1年ほどたってからでした。「なにげない夕ごはんの後でした。これまでは触られることさえ苦手な子なのに、この日は自分から体を擦り寄せてきて…」。そのまま、自然に抱えあげることができました。思わずあわてて写真を撮影したという榊原さん。台所の前のなにげない日常のスナップのようですが、榊原さんにもSorteちゃんにも、かけがえのない一瞬でした。
Sorteちゃんがお家にきたことで、榊原さんの暮らしにも少しずつ変化が訪れました。もともと趣味で天然石のアクセサリーをつくっていたそうですが、Sorteちゃんと過ごすうちに、この幸せをおすそ分けできないかと思うようになったといいます。オーダーメードでお客さんの要望にあわせて制作、販売をするようになりました。
購入してくれた方には、完成したアクセサリーにあわせて、Sorteちゃんのことを紹介するアルバムも渡しているそう。「日本では、今でも日々、犬や猫が殺されています。Sorteみたいな猫がいることを少しでも知ってほしいと思っています」