「お金ない」「恋人に刺される」?!…悩めるバンドマンに引っ越し割 震災で音楽志した業者のニクイ心意気
「夜型の生活に対応してくれる業者がない」「引っ越し費用より機材が買いたい」。夢と大志はあふれるほどあれど、お金はない…。そんなバンドマンたちの一筋の光になるような「バンドマン引っ越し割」が話題になっています。チラシには「ファンに家を特定された」といった事情も書かれ、いろいろ大変なんだなあ…と読み進めると「事務所に黙って夜逃げしたい」に「そろそろ恋人に刺される」?! 一体、どうしてこんなサービスを始めたのか、そこには暑い、いえ、厚いバンドマンの思いがあったのです。
「引っ越し割」を始めたのは、神戸市の運送業「マルタク運送」。今月スタートしたばかりですが、内容は50キロまでの距離で基本料金2万円と激安です。練習場所のスタジオにあるチラシを見かけたバンドマンのすだ(@pickon103)さんが「こんな読んでて辛くなる引越し業者のチラシある?」とツイートし、これまでに3.6万件のリツイートと8.8万件のいいねが寄せられています。「ナードマグネット」というバンドでギターとボーカルを担当するすださんも「ここまではなくても、お金や夜型の生活とかはよく分かります…涙」とか。早速依頼も入ったそうです。
マルタク運送を営むオンギュルウス&獣兵衛(@JamesGodfield)さんに聞きました。
-なぜ、こんなサービスを?
「僕もバンドマンなんですが、バンドマンってとにかくお金がないんです。見た目が派手だと仕事は限られるのに、機材は高いしライブチケットのノルマもある。にも関わらず、『夜も音がうるさい』と苦情が出てアパートを退去させられたり、バンドのメンバーが変わって練習場所が遠くなったりと、平常でも引っ越しの機会が多くて。でも業者さんの多くは夕方遅くからだとNGも多いので、事情が分かる僕ならできるかな、と。立つ鳥跡を濁さずじゃないですが、最後ぐらい住民の方に迷惑かけないよう、去りたいですしね」
-しかし、バンドマンってこんな身の危険にいつもさらされてるんですか…
「事務所から逃げたのは僕です(笑)。中にはブラックなところもあって、CDからチラシから全部自分で負担させられ、何か失敗あると夜中でも呼び出され、殴られることもあって…。で、メンバー全員で逃げ出したんです(笑)ファンに家を特定されるのも、人気が出てくるとありますし、ライブ会場に車で出待ちして、あとをつけるとかあるみたいですね」
-え…と、刃傷沙汰もホントなんですか?「これは知り合いですねー(笑)ほとんど人が入ってないライブハウスで、彼女4人が鉢合わせしたらしく…。本人は『刺さる一歩手前やった!』と言うてました(苦笑)バンドマンってやっぱりモテたくて始めるし、千原せいじさんじゃないですが、モテたあてやってるやつが多いと思いますけど、怖いですよねえ~」
-いやいや、そんな他人事のように…って他人事ですけど、そうまでして続けたいのは?
「人それぞれでしょうけど、僕が初めにバンドやりたいと思ったのは、阪神・淡路大震災がきっかけなんです。当時小学生だったんですが、東灘区の家は全壊して、大学の体育館の避難所で暮らしてた。そこでボランティアの方が息子さんのライブチケットをくれたんです。母親と大阪まで行って見たライブは、とにかくめちゃくちゃカッコよかった。見たことない世界だったんです。それまで避難所には娯楽が一切なく、毎日炊き出しのおにぎりを食べて近くの川までポリタンクに水を汲みに行く日々。すごく輝いてた。でも楽器もできず音痴だったし、実際にバンドが組めたのは高校生になってから。以来、歴はン10年になります(笑)」
-やめようとは思わなかったんですか?
「バンドって長く続けるのが一番大変なんです。あ、ちなみに僕、ずっと公称24歳なんですが、10代のうちは『20歳になったらやめる』、20歳になったら『22ぐらいまでやってみて…』となり25歳ぐらいでやめていく人が多い。25歳になると『30歳までやってみて何にもならへん男は終わりや』となって、30超えると『一生やーろうっ♪』ってなるんです。売れるか売れないかより、お客さんに楽しいと思ってもらいたい、良いものを作りたいという職人的な楽しみ方になるというか」
-な、なるほど…。今は本業が運送屋さんで、夜はバンドマンなんですね。
「もともと父が運送屋をしていて、いろいろあって跡を継いだんですが、個人事業主なのでマージンが要らない分、こんな値段でもできるんです。遠いところなら丸1日使ってこの儲け?…と言われることもありますけど、ビンボーなバンドマンに感謝されて、一緒に音楽の話なんかしながら荷造りして、『ほなまたライブハウスで』って、儲け以上のものがもらえるかな、と」
と、めっちゃいいことを言って締めてくれました(笑)こんな業者さんなら、いろんな悩みも解決してしまうかもしれませんね!
(まいどなニュース・広畑 千春)