屋久島のサルに「餌付け」か?森にばら撒かれた菓子、人的被害も…「20年の取り組み無に」地元に嘆きと怒り
散らばった大量のせんべいと、それをほおばるヤクシマザル…。樹齢7200年とも言われる「縄文杉」を始め、豊かで貴重な生態系を持ち「東洋のガラパゴス」とも称される世界自然遺産・屋久島で、今夏以降、条例で禁止されている「餌付け」と思われる行為が相次いで確認されている。餌をくれると認識したサルが人を取り囲むなどの被害も1~2年ほど前から報告されているといい、関係者は「つかず離れずの距離でサルやシカが見られるのも、10年、20年と『餌をあげないで』と声を上げ続けた結果。生態系を守るため、どうか、理解して欲しい」と訴える。
「屋久島で絶対に守っていただきたいこと」-。今月21日、屋久島観光協会の公式Facebookに、島内で確認されたサルとせんべいの写真を投稿。英語と中国語でも投稿し、観光客らに注意を呼び掛けた。
ヤクシマザルはヤクザルともいわれ、屋久島だけに生息するニホンザルの亜種。島内には数千頭が生息しているという。せんべいが発見されたのは、今月13日の昼過ぎ。目撃した地元ガイドによると、島の西側にあり人気のドライブコースである「西部林道」の脇でヤクザルの群れを見つけ、車を降りて確認したところ、せんべいが大量にばらまかれていたという。ガイドはすぐにサルを追い払い、せんべいを回収したが、既に食べられており、サルたちは手に持てるだけのせんべいを持って、森の中に逃げていったという。
ガイドは「自分たちも餌をやらないよう訴えてきたが、ここ1年ぐらい、人づてに、レンタカーや、歩いている人がサルに囲まれた-という話を聞くようになっていた。ばら撒いた人の意図は分からないけれど、まさか本当にしているとは…」と声を落とす。
だが、環境省屋久島自然保護官事務所によると、餌付けとみられる行為は今年8月末にもあったという。同じ西部林道を職員が巡視中に、道路から少し森の中に入った木立の陰に割られたキャベツのかたまりが置かれているのを発見。既に食べられた跡があったが、刃物で切ったような切り口だったといい、同事務所は「意図的に置かれたのでは」とする。また、2年ほど前に環境学習中の子どもがサルに囲まれたこともあったという。
実は、屋久島では1970~80年代に、野生のサルを餌付けして観光に役立てようという試みがあったという。だが、人間の食べ物の味を覚えてしまったサルが群れを渡り歩くことで、餌付けをしていなかった地域のサルにも習性が広がり、農作物を荒らしたり、女性や子ども、お年寄りらを襲う-といった被害が続出。1990年代初めからはボランティアがステッカーを作るなどして、サルやシカなどに餌をやらないよう訴え続けてきたほか、2011年には町も餌付けを禁止する条例を制定。違反者には罰則も設けた。
「それでも、サルは一度覚えた味を忘れない。10年、20年地道に訴え続けて、そういうサルが死に、世代が変わってようやく最近、落ち着いてきたところなんです」と屋久島観光協会。「人の食べ物は野生動物にとっては有害なこともある。自然界は私たちが計り知れない複雑な関係性の中で成り立っている。餌付けによって動物の食生活や行動を変えることは、そのバランスを壊してしまうことにつながるんです」と訴える。
町の統計によれば、屋久島を訪れる観光客は2017年度29万人を超え、海外からの観光客も増えているという。屋久島観光協会の投稿のシェアは続き、支援するコメントも多く寄せられている。担当者は言う。「屋久島の魅力は、『自然vs人間』ではなくて『自然とともに人が生きてきた』という歴史にあると思うんです。そう考えると、今屋久島に住む人としての役割は、自然に対するマナーの意識啓発を、これまでよりもっと積極的に行っていくこと。少数の、自然への知識が乏しい人たちにどのように理解してもらうか、その方策を考え、発信していきたい」
(まいどなニュース・広畑 千春)