京都の寺社仏閣が美術館に変身…アートを通じ地元の魅力を再発掘する「まるごと美術館」
京都といえば、多くの伝統文化が息づく千年の都。各地の観光名所は、連日観光客で賑わっている。しかし「地域」「地元」といった視点から街を見直すと、少し見方が変わるかもしれない。住民同士の関係性の希薄化、地元商店の減少などがみられる地域も少なくない。その先にあるのは、街の衰退かもしれない。今、上京区では、そんな危機を脱しようと多くの寺社仏閣を「美術館」にし、新たな魅力を発掘することを目的としたイベントがある。その名も「まるごと美術館」だ。
同イベントは、上京区の寺社仏閣でライトアップやアート作品、伝統工芸品を展示する特別拝観。2018年秋に始まって以降、春と秋に開催されている。3回目となる今季は11月初旬から10カ所で実施。各所の距離も比較的近く、気軽に散策しながらその街の魅力を堪能できる。
上京区といえば、西陣織をはじめとする工芸品、由緒溢れる伝統的な街並み、茶の文化や町衆文化など、街が育んだ財産が豊富。それらの地域資源と、風情ある寺社仏閣の雰囲気が相まって、街の魅力が迫ってくる。
発起人は、上京区で生まれ育ち、今も住まいを構えている菅真継さん。3年ほど前に商店街を歩いた際、多くの店のシャッターが降り、客足も遠のく様子に危機感を覚えたという。かつての活気がないことに気づいたことが、イベント考案のきっかけだ。
「どうすれば良いか考えていたときに地図を開くと、上京区内の狭いエリアにお寺が密集していることに気づきました。そこに安定的に人が流れれば、彼らはその周辺を歩き、地域を散策することができますよね。だからお寺の間口を広げ、街の活性化につなげたいと思ったんです」
菅さんは意外にも「このイベントに一番来てほしいのは、上京区の方々です」と話す。
「この活動を通して、『自分の街に興味のない人々』が多くいることを知りました。近所にお寺やお店があっても、行かない。それでは街が衰退します。だからこそ、上京区出身の僕がこのイベントを行うことに、意味があると思うんです」
とはいえ、スムーズに開催に至ったわけではなかった。その原因は、「良くも悪くも、伝統を重んじる京都という地域柄」だったという。
「別に衰退し切っているわけではないから、住民を巻き込みたくても結束力が生まれなかったんです。僕がキュレーションを担当している妙顕寺からも、最初は断られていました」
しかし敷地内の掃除や整備を手伝うなど日常の中で信用を得るよう努め、1年を経て「じゃあ、やってみて」と許可が下りた。
「京都の『伝統』のブランドにあぐらをかいている場合ではないと思うんです。今、全国に2万ほどの無人寺があるそう。京都も他人事ではないので、今のうちに手を打つことが重要なんです」
1カ所から始まり、今や10カ所で開催され、今季のみで1万人もの来場者が予想される「まるごと美術館」。それでも菅さんは「まだ思い描くビジョンは達成できていない」と語る。
「もっと展示場所の数を増やしたいです。数が多い方が、上京の魅力をもっと味わってもらえると思う。目標は100カ所です」
またこのイベントを通じて、「上京区を若者が活躍できる街にしたい」という抱負もある。
「今、工芸士の後継者が不足しています。例えば子ども向けのワークショップを開催するなどして、本物に触れてもらい、伝統を受け継ぐ環境を作ること。またこれからの社会を担う年代が、起業しやすい街にもなってほしい。その上で世代や宗教を超えて人々が協力し合い、上京区を『おもろい街』にしていきたいですね」
(まいどなニュース特約・桑田 萌)