「連れ出す大人」「ついて行く子供」 誘拐家出事件における心理の相違点
SNSを利用した子供への誘拐や誘い出す事件が相次いでいます。こうした事件が起きると、「下心があったのではないか」、「家出への気持ちを利用した支配欲」など様々な憶測がなされます。
建物や車への“誘拐”という形になっていなくても、街や公園で子供に声をかけて「話をしよう」「手を繋ごう」といった“声掛け事案”としても同様の事件は多数起きています。
子供たちに声をかけて連れ出そうとする大人の心理は一体どのようなものなのでしょうか。
小学生に声をかけて逮捕されたある加害者は、「かわいいと思った」「話し相手が欲しかった」と語ります。また中学生に声をかけた加害者は「中学生までは楽しかった。あの頃に戻りたかった」などといいます。
■過去に焦がれる衝動に駆られている
“子供の頃を思い出して懐かしむ”という経験は珍しくはありませんが、関わりのなかった子供に声を掛けてしまう背景には、自分の心が少年期のまま留まっており、現実的に将来を展望するよりも、過去に焦がれる衝動に駆られているからと考えることができます。
過去の思い出は、現在を生きる励みにもなりますが、過去に縛られてしまうと、現在を打開する力が湧いてこず、思い出の中に浸り続けてしまいます。
こうした状況における心理教育としては、過去の葛藤や思い出を整理し、本来成し遂げたかった願望に気づき、「今の自分が自分である」という実感を持てるまで向き合っていく必要があります。
子供時代は、自分で動かなくても親や先生が気にかけてサポートを得る機会もありますが、大人になると自分の力で人生を設計していかなければなりません。そのため、自発的で社会的な問題解決の方法を獲得することが課題となります。
一方、こうした事件は大人に声を掛けられても、子供が察知して距離を取ることができればよいのですが、SNS上でメッセージをやり取りしてしまうケースでは、大人側が相談相手のような立場で接しており、「親切にしてもらったのだから応えなくてはいけない」「優しくしてくれるからいい人だろう」と、ついて行ってしまうことが考えられます。
また、家出をする背景には、「帰ったら親に叱られると思った」「意地になっていた」「一人で生きていきたかった」など、様々な理由があり、中には「自分を探してほしかった」と語った子もいました。
自我の成長途上にあり、親の考えに矛盾や窮屈さを感じて対決し、自分の生き方を見つけようと外の世界に飛び出していく旅立ちの物語が背景にあることも珍しくはありません。ここに過去を取り戻そうとする大人側の修復の物語が合致してしまい、本人たちは自覚しないままに違法行為へと足を踏み入れてしまうこともあります。
■大人側も子供側も、孤独や寂しさを抱えているが…
こうした事案の大人側も子供側も、孤独や寂しさを抱えていますが、双方の本質的な目的は異なります。SNSでメッセージを発信している子供がいたとしても、それを自ら直接解決しようとしなくても、子供の発達を理解している専門家や、支えてくれる適切な人、または機関につなげていくという方法を取ることもできます。
思春期に入ると、両親には話したくないような情緒的な葛藤も大きくなり、苦しみを歌や絵にしたり、少し歳の離れた第三者に相談したくなったりすることもあります。反対に、一人で向き合う時間が成長を促進させることもあります。
SNSで発信された子供のメッセージを単純化して受け取らず、何を求めているのかを奥行きを持って想像し、心の居場所を確保しながらも、解決の糸口を探る大人としての作法を身に着けることが大切です。
(公認心理師、臨床心理士・中村 大輔)