まるで特大野球盤!重い障害があっても野球を…元球児の熱い思い
性別や年齢、そして障害の有無も関係ない。誰でも参加できるスポーツ「ユニバーサル野球」が今年6月、堀江車輌電装(本社・東京都千代田区)の新事業としてスタートした。きっかけは2017年、同社障がい者支援事業部の中村哲郎さん(51)と「野球をしたい」という特別支援学校生徒との出会いだった。
ユニバーサル野球の球場は実際の20分の1、本塁から中堅フェンスまで6メートルの大きさ。ひもを引くことで長さ約40センチのバットを振り、ターンテーブル上で周回する直径約10センチのアルミ製ボールを打つ。転がった打球が入ったポケットにより、ヒットやアウトが決まるのは、お馴染みの野球盤と同じ。空振りはないが、好結果には打ち出すタイミングが求められる。
各地で行っている体験会。健常者と障害のある子供たちが一緒に行った試合で、中村さんは取り組みの意義を示す光景を見た。
「最初は自分の打つことだけを考えていた子供たちから、試合が進むにつれて得点が入ったり、ヒットが出るとハイタッチしたり『ナイスバッティング』という声が出てきたんです。重い障害のある子供たちにとって、チームスポーツを経験する機会は少ないんですが、皆で喜びあう姿はすごく嬉しかった」
中村さんは北海高(北海道)で甲子園を目指した元球児。卒業後は建設業や不動産業に従事した。11年の東日本大震災を機に、様々なボランティア活動に取り組んだ。鉄道車両の整備を手掛ける堀江車輌電装が、障害者スポーツや就職先紹介などの支援活動に積極的であることを知り、16年8月に入社。翌年に出会った前述の少年らの協力を受け、開発を始めた。
最初は自動開閉式の傘の原理でバットを振る仕組みを試作したが、重い障害のある子供たちは1人もプッシュボタンを押せなかった。ひもを引っ張ってバットのゴムを引き、離して振る試作も半数以上ができなかった。昨年12月、軽い力で固定ピンが抜ける現在の形を完成させた。
組立式で段ボール製の球場は、改良が施されてきた。車いすから打球を見やすいようにフェンスを透明にしたり、競技しやすいように高さ1メートルの会議机に球場を置く方式から、架台を作り高さを60センチにした。バックスクリーンや走者の表示は一部電工式になり、競技能力に応じてターンテーブルの回転速度を可変式にした。 木製だったバットは、ミズノ社が特別に作った金属製に変更。高校野球で特徴的な打球音を目指している。
「僕が大好きな野球を皆にも経験してほしいんです。スポーツには心身の成長を促す力がある。ユニバーサル野球を通じて、子供たちの役に立つことが、協力してくれた子供たちへの恩返しだと思っています」
12月8日にはプロ野球選手会によるイベント「ベースボールクリスマス」(愛媛県西条市)にブース参加、同11日には関西初となる大阪での体験会を実施する。「大阪ではご高齢の方が多く参加されます。子どもとは違う、新しい気付きがあると考えています」と中村さん。もっとユニバーサルへ。来年末開催を目指す本大会に向け、進化を重ねていく。
(デイリースポーツ・山本 鋼平)