衝撃ミステリー「屍人荘の殺人」原作者の意外な素顔…映画化インタビューでなぜかアニメ愛を語り始める
「このミステリーがすごい!」「本格ミステリ大賞」など国内の主要ミステリー賞4冠を達成し、その登場自体が「ミステリー界の大事件」とも称される小説「屍人荘の殺人」が、神木隆之介主演で満を持して実写映画化。いよいよ12月13日(金)から全国公開される。各種メディアでのプロモーションも活発化。映画公開直前のお祭りのようなこの状況を誰よりも楽しんでいる男がいる。原作者の今村昌弘だ。
「まだかーまだかー」
「きたーーーー!Perfume!!」
「わーーい!再生 再生 再生成♪」
11月下旬、今村のTwitterアカウントの投稿である。
この日はテレビの音楽番組にPerfumeが出演し、映画の主題歌「再生」を歌うことになっていた。他にも今村は、映画のキャンペーン情報を逐次投稿するなど、積極的にプロモーションに“参加”。インタビュー会場に現れた今村に、まずはそこから突っ込んでみた。
「自分の作品なんだけど、自分が乗り遅れないように一生懸命なんです(笑)」
■「原作者の立ち位置がわからない」
ミステリー界、出版界を席巻した「屍人荘の殺人」は、2017年に発表された今村のデビュー作。大学のミステリ愛好会で活動する主人公たちが、夏の合宿先で連続殺人事件に巻き込まれ、生き残りを懸けて謎解きに挑む本格ミステリーだ。奇想と謎解きの衝撃的な融合で読者の度肝を抜き、瞬く間にベストセラーの仲間入りを果たした。
「デビュー作ということもあって、出版界や映画界、メディアミックスのことが全然わからない。映画化に際して、原作者がどう振る舞えばいいのかもよくわからないんですよ。あんまり目立ちすぎるのも良くない気はするんですが、かといって映画と距離があるように思われるのも嫌なので…。探り探りですね」
「Perfumeさんの件も、せっかく主題歌を歌ってくださっているのに、原作者が澄ましていてもしょうがないというか。映画のスタッフやキャスト、それに原作を読んでくださった人たちと一緒に『すごいことになったね』と喜びたいんですよ」
■「全員はまり役」とキャスティングを絶賛
映画版では、主人公の探偵助手・葉村譲を神木隆之介、謎の美人女子大生探偵・剣崎比留子を浜辺美波、ミステリー愛好会の自称探偵・明智恭介を中村倫也が演じた。
「全員はまり役ですよね。神木さんは助手として目立ちすぎず、それでいて主人公としての存在感もきっちり示してくれた。あの役は神木さん以外にはできないと思います」
「浜辺さんが演じる比留子は『近づき難いほどの美人』という設定なんですが、浜辺さん自身、最近の言い方だと2.5次元といいますか、現実離れした美貌の持ち主で、まさにぴったり。彼女は近くで見ると本当にびっくりするくらい華奢で小さくて、“空想の住人”が現実に歩み寄ってきたみたいな、ものすごい存在感なんですよ」
「中村さんは何にでもなり切れるカメレオン俳優だと認識していましたけど、明智も『ああ、こういうヤツだったんだな』と原作者の僕が教えられるくらい、素敵に演じてくださいました。映画の公開に合わせて明智が出てくる短編を書いたんですが、映画の明智に引きずられるあまり、ほぼ中村さんになってしまいました(笑)」
■関西の爆音上映の聖地・塚口サンサン劇場でガルパン
今村は1985年生まれ。神戸出身で、現在も神戸に住む。読書遍歴については、これまで多くのインタビューで語っているため、今回は映画化を記念して映画遍歴を振り返っていただこう。
「ほとんど見てないです」
なんと。
「映画館には本当に遊園地気分で行くので、重い話や真面目な話を見ることがあまりなくて、見る前から何が起こるか大体わかるアクション映画のようなものばかり。映画に関しては、本当に語ることがない(笑)。監督名とかも全然知らないし、こんな作品を書いておきながらミステリーとかもあんまり見ないです」
なななんと!
「今までで一番多く見に行った映画は『ガールズ&パンツァー(ガルパン)』の劇場版。塚口サンサン劇場(兵庫県尼崎市)の爆音上映にも行きましたよ。今年の夏だと『プロメア』とか…。アニメは好きですね。あと、ガンダム。問答無用でガンダムは見に行きます。『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』(2018年)は良かったです!」
そんな今村は、「屍人荘の殺人」映画版をどう見たのだろう。
「自分が普段書いている本格ミステリーは、どうしても一部の本好きが楽しむものになりがちなんですが、どんな趣味の人でも楽しめる間口の広い作品になったなと感じました」
「原作にすっごく忠実に作ってしまうと、本当に原作ファンしか楽しめない感じになったかもしれません。映画ならではの工夫もあり、『こんなやり方、見せ方もあるのか』と勉強になりました」
監督は木村ひさし、脚本は蒔田光治。2人とも、ドラマ版「金田一少年の事件簿」に携わった経験がある。
「『屍人荘の殺人』を書く上で最初にイメージしていたのが『金田一少年の事件簿』。第一の殺人、第二の殺人が起きて犯人を見つける-というオーソドックスな形にしようと思っていたので。木村監督は映像でトリックを見せるパワーがある。いろんな道具を使って鍵を開けたり、エレベーターを動かしたりというのは、文章よりも映像で見せられた方がインパクトがあるし、真相を知ったときの衝撃も大きい。このあたりは、映画を見た人こそ楽しめるんじゃないかなと思います」
映画化の熱狂が本格化するのはこれからだが、小説はすでに続編「魔眼の匣の殺人」を刊行。さらには2020年に3作目を出すべく、準備を進めているという。さすがにそろそろ顔が売れてきたのでは…。
「割と普通に三宮・元町界隈をぶらぶらしているので、気づいてもそっとしておいてほしいです(笑)。ずっとお世話になっている『うみねこ堂書林』というミステリー関連を扱う古書店が神戸にあるんですが、先日、その上のジャズ喫茶でお客さんに声を掛けられてサインしました。ありがたいことですけどね」
「今のところは上京の予定はありません。デビューしていきなり名前が売れてしまったので、いろんな出版社からめちゃくちゃ連絡が来るようになって。東京に住むと、突撃されて断りづらかったりするじゃないですか。神戸にいれば言い訳が立ちますし、何よりすごく生活しやすい街ですから」
(まいどなニュース・黒川 裕生)