バリ島で飼い主に蹴られていたちびくん、日本人夫婦に“保護”されてひょうきん犬に
インドネシアでリゾート地として有名なバリ島に住んでいる加納さん夫妻。現地では、犬を飼うことがステータスになっているが、飼われている犬たちは必ずしもきちんと面倒をみてもらっているとは限らない。ちびくんも、飼い犬なのに脚の指の間に、マダニがびっしり寄生していた。
■脚にマダニがいっぱい寄生した近所の犬
バリ島に住んでいる加納さんは、14匹の保護犬を飼っている。ちびくんは、月齢3カ月くらいの時に出会った犬で、3番目に保護した子だ。
ちびくんは、近所の人が飼っていた犬だが、加納さんの犬のぱんくんとはなちゃんがお散歩をしている時、当時飼われていた家の前で会うと、いつも「待っていました!」とばかりに加納さん夫妻に飛びつき、耳を倒して喜んだ。ぱんくんやはなちゃんにもじゃれついてきて、ぱんくんが亡くなってはなちゃんだけになっても、相変わらずはしゃいでいた。
バリ島では放し飼いされている犬が多く、ちびくんもそうだった。はなちゃんについてお散歩した後は、まるで当然のように加納さんの家の中に入り、はなちゃんとまったり過ごして、いつまで経っても帰らないことがあった。
「当時はまだ小さい子犬だったので、帰り道が分からないかもしれないと、何度か家まで送り届けました」
■「犬は好きよ」と言いながら蹴り飛ばす女
はなちゃんは、ぱんくんが亡くなって寂しそうにしていたが、ちびくんと遊んでいると、とても楽しそうで、加納さん夫妻も嬉しく思っていた。
しかし、ちびくんは脚の指の間には、吸血して成長したマダニが、いつもびっしりついていた。路上のごみを食べているせいか体臭や口臭がひどく、加納さんはちびくんの健康状態が気になった。一緒に遊ぶはなちゃんへの影響も気になった。
ちびくんの飼い主さんに聞くと、「予防接種はしていない、病気でも薬を飲ませたり、注射をするつもりはない。動物病院?そんなお金はないわよ」と言って笑われた。確かに、犬にお金をかけられる経済状況のようには見受けられなかった。
「この子のことは好きなんですよね?」と聞いてみると、彼女は、「犬は好きよ。私も息子も」と言いながら、足元に寄ってきて甘噛みしようとしたちびくんを蹴り飛ばした。
■犬を飼うことはステータス、しかし・・・
バリ島では、犬を飼うことが一種のステータスになる風潮がある。ラブラドールレトリーバーやゴールデンレトリーバー、シベリアンハスキーなどのブランド犬ともなればなおさらだ。だからといって可愛がっているかというと、必ずしもそうではない。犬を狭くて身動きの取れないようなケージに閉じ込め、スパイスが効いた残飯を与える。シャンプーをすることもなく、ケガをしても病気になっても動物病院に行かず、放置する。必ずしも「犬を飼っている=好き=可愛がって世話をやく」という“方程式”は通用しないという。ちびくんの飼い主も例外ではなかった。
加納さんは悩んだ。
「ちびは他人の家の子で、私たちが都度、できる範囲で世話をやいたとしても毎日管理できるわけではありません。ちびが路上でごみを漁る姿を見たくない。飼い主さんはちびを好きだと言うし、ちびだって家に愛着があるはず。どうしたら一番いいのだろうか」
■晴れて加納さん宅の子に
ちびくんは、相変わらずマダニがびっしりついた足で家にやってくる。加納さんは、思い切って飼い主さんに、「私たちにちびを託してくれませんか」と尋ねた。驚いたことに、答えは即答で「OK!」だった。あまりにもあっさりした展開に、加納さんは複雑な思いがした。
2017年1月、ちびくんは加納さんの子になった。
現在、ちびくんは、加納家のひょうきん者になっている。テンションが上がると、先陣を切って、独特の鳴き声を張り上げて歌うように吠え始める。それにつられてみんなが声を上げだすと、ちびくんは後ろ脚だけで立ち上がり、大声で自分の歌に酔いしれる。
2本の後ろ脚で立ち上がるのは、ちびくんの十八番で、他の犬たちがけんかしていたり、怒られたりしていると、場の空気を和ませるためなのか、しょっちゅうやっているという。