「男はつらいよ」新作は「寅さんを想う最高の映画体験」 新刊の著者が語る魅力とは
日本の盆暮れ正月には国民的映画「男はつらいよ」が共にあった。だが、主役の車寅次郎を演じた渥美清さんの死去(1996年)により、新作としてスクリーンから姿を消して20年以上になる。毎年、この季節になると「寅さんロス」になる人も少なくないだろう。そんな時代、シリーズ22年ぶりの新作にして第50作の「男はつらいよ お帰り 寅さん」が、第1作劇場公開から50周年の師走に帰って来る。この年末までに9冊もの「寅さん本」が出版されているが、「みんなの寅さん from 1969」(アルファベータブックス、税別3800円)など2冊を同時リリースした娯楽映画研究家・佐藤利明氏に思いをうかがった。
「みんなの寅さん from 1969」は、佐藤氏が文化放送「みんなの寅さん」公式サイトで、2011年4 月から3年間に渡って「寅さん博士」として毎週連載したコラムを中心に、夕刊フジ連載「みんなの寅さん」、デイリースポーツで15年7~8月に連載された「天才俳優・渥美清 泣いてたまるか人生」などをまとめて構成されている。
記者は、渥美さん主演で66~68年に放映されたTBSのドラマ「泣いてたまるか」にスポットを当てた連載「天才俳優~」を担当した縁もあり、A5判656ページという大著に収録されたことに感慨があった。
佐藤氏は「映画『男はつらいよ』第1作と出会ったのが、6歳になったばかりの夏。以来、映画に夢中になり、娯楽映画研究家を生業としてきました。幼少の頃より、『男はつらいよ』シリーズと共に僕の映画人生はありました」と自身の原点であることを明かし、「その集大成として、シリーズの魅力、楽しさ、深さを執筆させていただいたものです。おそらくは史上最大ボリュームの『寅さん本』となりました」と自負する。
巻末の全作品データベースに目を見張った。ネット検索ではたどりつけない情報が満載だ。寅さんの啖呵売(たんかばい)の記録も楽しい。啖呵売とは、露天商などが巧みな話術で商品の魅力を何倍にも膨らませて聴衆に売りさばく手法のこと。例えば、いしだあゆみがマドンナの第29作「寅次郎あじさいの恋」では「接着剤ピッタリコン(京都・鴨川公園付近)」などとある。ロケ地も詳細で、観光名所だけでなく、飲食店名やアパート名に至るまで詳細を極めている。
この徹底したこだわりについて、佐藤氏は「在野の研究者の方々の協力を得て現状で最新のものです。徹底的に作りました。コンプリートデータを作成するための第一段階。これからも更新していきたい」と意欲的だ。
もう一冊は「寅さんのことば 生きてる? そら結構だ」(幻冬舎、税別1100円)。作品に登場する寅さんの言葉が佐藤氏の解説と共に紹介される。タイトルの「生きてる?そら結構だ」は渥美さん生前最後の出演作となった第48作「寅次郎紅の花」(95年)からの引用だ。
佐藤氏は都内で出版記念トークショーを行い、誕生日(8月9日)と名字が同じで、新作にも出演したシリーズ常連の俳優・佐藤蛾次郎と共演した。映画に先んじたフジテレビ版ドラマ「男はつらいよ」で、当初のタイトルは「愚兄賢妹」だったこと。言うまでもなく、愚兄とは寅次郎、賢妹はさくら(テレビ版は長山藍子)だが、そんな固い題名が「男はつらいよ」になったのは、渥美さんが鼻歌でよく歌っていたという北島三郎の「意地のすじがね」という曲の歌詞にも由来していること。そんなトリビアが披露された。
佐藤氏は当サイトの取材に対し「寅さん映画は、旅先の寅さんが柴又のさくらを想い、さくらが旅先の寅さんを想う。“人が人を想う”素晴らしさ、美しさに溢れています。寅さんの恋は、相手を想うことの美しさでもあります。天才俳優・渥美清の絶妙の演技に笑いながら、寅さんの心情に共感する映画体験は何事にも変えがたいです」と魅力を指摘。新作公開に向けて「『お帰り 寅さん』は、おなじみの登場人物たちの“現在”を知ることの嬉しさだけでなく、観客も満男やさくらと一緒に“寅さんを想う”ことができる最高の映画体験です」と解説した。
(まいどなニュース/デイリースポーツ・北村 泰介)