「まだ世の中にないもの」どう生み出す? 独創的なぬいぐるみで話題沸騰…フェリシモのプランナーに聞く

 丸すぎるアザラシクッションや1メートル以上あるセクシーな大根の抱き枕、そして意味不明な可愛さで手にする人をことごとく虜にしてしまう牡蠣クッション…。皆さんもSNSで一度は目にしたことがあるかもしれません。想像の斜め上を行く、独創性でキュートな商品を次々と世に送り出す通販会社フェリシモ(神戸)。前述のユニークなぬいぐるみの数々を企画しているのは同社内の「YOU+MORE!」というブランドのヒットプランナー、楢崎友里さんです。

 「YOU+MORE!」は心豊かでごきげんな日常を作る、をコンセプトに展開する雑貨ブランド。楢崎さんの手掛けた商品で特に人気は「おまんじゅうアザラシユキちゃん もっちりビッグクッション」。伸縮性の良い素材と極細の繊維でできた綿で作られていて、実際に抱き着いてみると、まるでできたてほかほかの大福もちの柔肌に身を寄せるよう。「抱き枕にしよう」「アザラシ疑似飼育」などなどの声が寄せられ、またそのリアルな形状もあいまって、海遊館の飼育員さんからは「(リアルすぎて)検温したくなる…」とのお声も。

 こんなにも人の心をつかんでしまうデザインをする楡崎さんはどんな人…?インタビューすると「世間にすでに受け入れられているものに『ヒットしているから』という理由だけで追随しない」「変わったものを、ほら面白いでしょ、とさし出すだけではダメ。お客さまには作り手の『本気度』が伝わる」とものづくりに真摯に対峙する姿勢が伝わってきました。

   ◇   ◇

-入社時はどんなお仕事からスタートしましたか。

「わたしは2013年入社、現在入社7年目です。1年目は生活雑貨の部署に配属されました。そこでインテリア商品の開発をしていたのですが、そこで自分で企画して作った『深海魚の靴下』がヒットして。その時。『YOU+MORE!』ブランドは立ち上がったばかり。そこへ入社2年目にして異動になりました。それからはずっと同ブランドの商品企画を担当しています」

-異動は嬉しかったですか。

「それがそうでもなくて(笑)インテリアに未練があって…でも実際に『YOU+MORE!』でお仕事を始めると水を得た魚のようにどんどんアイデアが出てきました。子どものころから動物が好きだったので、深海魚の靴下もそこから出たアイデアだったんですけど、それが現在の職場ではいかされている気がします」

-具体的にはどういうことでしょう。

「この『もっちり子うさぎ』ポーチを見てください。目の際に極細のアイラインが入っているんです。ウサギのぬいぐるみなどを作るとき、つぶらな黒い瞳を表現するのにただ黒いボタンをつけた商品は多い。でもこのアイラインをしこむことでリアルさが増すんです。ただ工程も増えるし、ボタンをつける際も0.1ミリ単位で正確に打たなくてはならなくなる…でも実現させました」

-楢崎さんの中では『こう作るのだ』という明確な完成形のイメージがある、ということでしょうか。

「はい。あります。頭の中では『きっとこんなフォルムでこんな手触りでこんな表情で…』とたどり着きたいゴールが見えていて、そのためにたとえば素材は何を使うのか、どんな風に生地をはぎあわせるのか…など全ての現実的な条件を、完成のイメージに近づけていく…でもここで、例えば予算などの関係で、イメージがずれていってしまうことがあります。そうなると良くない」

-良くない?

「愛されるものではなくなってしまう…。その商品が形を成す前に愛されるか、そうでないかは分かるようになってきました」

-楢崎さんの作るものは、いわゆる世間一般の『可愛い』からはかけ離れたものも多いですね。今、SNSで話題の牡蠣のクッションなども頭で考えていたのでは実現できない可愛さのような…

「そうですね、なぜか分からないけど、惹きつけられる、抱きしめたくなる…っていう直感を大事にしています」

-理屈ではないと。

「面白いんですけど、あのクッションを女性に渡すとふしぎと横抱きにする方が多くて。顔とかついてないんですけど…まるで赤ちゃんを抱っこするみたいに」

-しかし、世間一般には『可愛い』とは(まだ)受け入れられていないものを作ることにためらいはありませんか?自分は人とは違う、人とは違ったことをする。受け入れてもらえないかも…と怖くなりませんか。

「怖くないです。いや、最初は怖かったかもしれないけど、今は怖くない。すでに今、世に愛されているものがあるとして、それが『受け入れられている』というただそれだけで、そこに自分も行く(自分も同じものを作る)ことはありません。むしろ『今ないものを作る』ことを心がけています。『まだ世の中にないもの』を探しています、いつも」

-ではその『まだ世の中にないもの』を作るうえで大事にしていることは。

「誠実に作ることです。細部のリアリティを追求することで愛される商品になる。先述のウサギのアイラインもそうですし、たとえば、この大根の抱き枕にしても、先っぽには『ひげ根』を付けているんです」

-本当だ!ひげ根だ!なんか…なんか嬉しい…!

「ね(笑)。このひげ根のせいでまた制作工程が増えますけど…。でもこういうことが大事で。ただ奇抜な面白いものを作っても今の人は目が肥えていて、受け入れてはもらえない、とSNSを見ていても感じるんです。だから細かいところに手を抜きません」

-最後に楢崎さんがご自分の作る作品をどのように使って欲しいか、どんなふうに使ってくれたら嬉しいか教えてください。

「自分の手を離れた後はどんなふうに使ってくれても。それこそ抱き枕にしてくれても良いし、インテリアとして飾って楽しんでくださっても」

「でも今まででいちばん嬉しかったお声は、就職活動中の女子大生からのコメントです。就活中って精神的に追い込まれることが多い状況です。彼女は、子うさぎのポーチを鞄に入れて持ち歩いてくれていたのだそうです。そしてプレッシャーのかかる状況に対面する前に、こっそり鞄に手を差し入れて、子ウサギのポーチを握ったりしてくれていたのだと。『その時に勇気を貰えました。ありがとうございました』と言ってくださって…」

「ぬいぐるみ、って本来は生きていくうえでどうしても必要なものではない。けれど、その可愛さに癒やされたり、力をもらえたり。でもぬいぐるみを大人は普通、鞄に入れて持ち歩かないですよね。でも『ポーチ』だったら大義名分というか、大人の女性の鞄にあってもおかしくないかな、って」

「だから自分が作ったものが人をしあわせにして、できることなら、誰かの助けになっていると思えるのが一番、嬉しいですね」

(まいどなニュース特約・山本 明)

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