消費冷え込み、ステーキ単価2000円で庶民離れ~「いきなり閉店」の背景、渡辺広明氏が解説

 外食産業企業・ペッパーフードサービス運営のステーキ専門店チェーン「いきなり!ステーキ」が近年の拡大路線にブレーキをかけ、全国の約500店舗のうち、2020年春までに44店舗を閉店する方針を発表。1月13日には既に公表されている26店舗を含む約30店舗が閉店する見込みと報じられている。流通アナリストの渡辺広明氏は当サイトの取材に対し、消費が冷え込む中において、同店のスタンダードな価格である「2000円」が一般的な消費者感覚としては「高い」と指摘。閉店が続く背景を分析した。

 「いきなり!ステーキ」は13年に初出店し、15年から18年にかけて店舗を急速に増やしたが、19年11月に自社の同一ブランドが競合していた地域を中心に44店の閉鎖を発表。12月には1月13日に閉店となる店舗を公表したところ、SNS上では、「いきなり!フケーキ(不景気)」といった書き込みと共に同チェーンがトレンドになっていた。

 渡辺氏は「単価が2000円を超えている。高くないですか?ネットでは味うんぬんを指摘する投稿もありましたが、私はおいしいと思います。一般的に飲食店の原価率は3割前後なのに対し、いきなり!ステーキは6~7割あると言われています。ただ、これは流通業界全体に言えることですが、生活が厳しくなっている状況の中では高いかなと。『立ち食いで2000円か』という印象を持たれる」と指摘した。

 同店の代表的なメニューであるリブロースステーキは、300グラムで2070円(税抜)。渡辺氏は「先日、あるフードコートに行った時、はなまるうどんとマクドナルドには行列ができていたが、いきなり!ステーキには並んでいなかった。お金に余裕のある人は払えても、庶民にとって外食で1人あたり1食に2000円以上を払うことは厳しい。消費増税もあり、消費が冷え込んでいる中で、高いものはお客さんがこない」と分析した。

 とはいえ、同チェーンでは、ミドルリブステーキ(200グラム、税抜き1320円)、ワイルドステーキ(300グラム、同1390円)など1000円台のメニューも充実している。だが、いずれもステーキだけ(付け合わせの温野菜1品込み)の価格。記者は定食スタイルにしようと、ミドルリブステーキにライスとスープのセット350円を追加し、消費税10%を加えると1800円を超えた。量的には200グラムでも、しっかり食べ応えはあったが、頻繁に食すのは厳しいと感じた。

 さらに、同氏は「店舗が増えたことで、都心でも当初の目新しさが薄れ、顧客離れが目立つようになった。一気に店舗数を増やしたことで、希少価値がなくなり、あえてこの店を選ぶというありがたみがなくなった」と付け加えた。ファミレスなどでも手頃な価格でステーキが食べられるようになり、飽きれば、別の選択肢が増えたとも言えるだろう。

 その「選択肢」ということでいうと、渡辺氏は沖縄発の別チェーンに注目した。「私が沖縄で食べた『やっぱりステーキ』は安くて好評でした」。実際、ツイッターでも「『いきなりステーキ』の大量閉店の裏で着々と店舗数が増えてきている『やっぱりステーキ』とは一体何者だ!?」という投稿が目につき始め、同チェーンのまとめサイトまでできていた。

 やっぱりステーキは、15年に沖縄県那覇市に1号店を出店。200グラムのステーキが1000円という格安価格で、沖縄県を拠点に急成長。全国展開も続け、19年8月以降は大阪市、三重県松阪市と四日市市、静岡県沼津市、岐阜県各務原市、福岡市に新店舗を出した。東北にも進出する一方、現時点で関東には店舗がないが、今後の展開が注目される。

 一方で、渡辺氏は外食産業全体の傾向として消費増税の影響を指摘した。「店内で食べるのと持ち帰りでは消費税2%の差がある。今後の外食産業全体に言えることですが、消費税で2%安くなるために、持ち帰りや宅配が増えていきます。いきなり!ステーキでも、焼き立てのステーキを熱く、おいしく、出来立ての状態を保ったまま、宅配や持ち帰りできるかといった課題が出てくるでしょう」と予測した。

 いきなり!ステーキでは、持ち帰りやデリバリーサービスを店舗によって導入。また、ランチタイムであれば、ライス、サラダ、スープ付きで1000円台前半で食べられるメニューもある。そういった経営努力を通し、ステーキブームのパイオニアとして改めて見直されるべく、原点に戻って模索していく時期を迎えているのかもしれない。安価なステーキを巡る過当競争は、20年代に入ってさらに過熱しそうだ。

(デイリースポーツ・北村 泰介)

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