飲んで喋って東北を思おう 阪神・淡路大震災の被災地で若者らが毎月カフェ開催
1995年の阪神・淡路大震災を機に設立された、防災を専門に学ぶ兵庫県立舞子高校環境防災科の卒業生たちが、毎月11日、神戸市内の居酒屋で、東日本大震災の被災地を支援するイベント「福興(ふっこう)カフェ in KOBE」を開催している。社会人や大学生となった今も、地震や豪雨などの被災地と様々な形で関わり続ける彼ら。1月11日にも10人以上が集まり、店の常連客と言葉を交わしながら、東日本だけでなく、間もなく発生から25年となる地元の震災にも思いを馳せた。
■25年前に全壊した居酒屋で…
「うまい!どんどん飲めるなあ」
神戸市長田区にあるカウンターとテーブル1卓だけの小さな居酒屋「酒処よしや」で、常連客らが上機嫌で岩手県の地酒を楽しんでいた。通常メニューに加え、この日は東北の銘酒や笹かま、さば味噌などの特別メニューを用意。カウンター内の厨房には、料理や酒の提供を手伝う20代の若者たちの姿があった。
よしやは2019年8月から、「福興カフェ」の神戸会場になっている。店はイベントを運営する今井直人さん(25)の実家。阪神・淡路で大きな被害が出たJR新長田駅の北側にあり、店舗兼住宅のよしやも全壊判定を受けたという。
■卒業後も息づく環防(カンボウ)イズム
今井さんは2002年4月にできた環境防災科(環防)の8期生。高校2年生のときに東日本大震災が発生し、在学中は東北で被災地支援にも取り組んだ。関西大学社会安全学部に進学してさらに防災の知識を深め、現在は若者支援のNPO法人で働くかたわら、フリーの芸人としても活動している。
高校卒業後も、被災地でのボランティア活動や東北支援のイベント、先行する福興カフェの運営に参加してきたという今井さん。地元の神戸で福興カフェを引き継ぐことになり、環防出身の仲間に声をかけて昨年8月から始めた。
主に協力するのは、11期生の成尾春輝さん、13期生の井手口健司さんら。元生徒会長の成尾さんは現在、兵庫県立大学大学院で防災をさらに掘り下げて研究中。井手口さんも神戸学院大学の社会防災学科に進むなど、それぞれの道で防災と関わり続けている。
「環防での実践的な学び、体験は強烈だった。その“環防イズム”は僕らの中でいまだに生きていますね」と3人。福興カフェの開催も、その延長線上にあるという。
■震災やこれからのことを話そう
今井さんは「『東北の酒や食材を提供する』という形ではありますが、売り上げを寄付するような取り組みではありません。月命日である11日に、誰でも集まれるゆるい繋がりの場を設け、震災や、これからのことを話そうという趣旨です」と説明する。
1月11日夜は、環防の8期生から15期生まで10人以上が集結。ひとしきり近況報告した後は、翌12日に開催される「ぼうさい甲子園」の打ち合わせなどをこなした。「東北の地酒が飲めると聞いて楽しみにしていた」という常連客も相次いで来店し、25年前の阪神・淡路の経験を振り返ったりしながら「若い人が神戸でこういう企画を続けることに意義がある。偉いと思うわ」と嬉しそうに目を細めていた。
神戸の福興カフェは毎月11日午後5時から午後11時頃まで。参加は自由。今井さんは「あまり気張らず、これからも長く続けていきたい。東北について知りたい人、震災や防災に興味がある人だけでなく、おいしいご飯が食べたい人、1人で飲みたい人も大歓迎です」と話している。
(まいどなニュース・黒川 裕生)
■酒処よしや■
神戸市長田区御屋敷通3-1-30
JR新長田駅、神戸高速鉄道西代駅から徒歩5分