7.8%まで普及した格安スマホの今後どうなる 楽天の出方が焦点か、政府の政策も問われる?
みなさんは携帯電話料金を月々、いくらぐらい支払っているだろうか。平均的には7000~8000円ぐらいと言われているが、これが2000~3000円ぐらいで済むなら嬉しいだろう。ちょっといい居酒屋で飲める分だけ、月々の小づかいが増えることになる。そんな希望を現実にしてくれるのが「格安スマートフォン(スマホ)」の存在だ。通信回線を持っている通信会社から回線を借りて、大手よりも安い価格で通信サービスを提供する、いわゆる仮想移動体通信会社(MVNO)が提供しているサービスだ。ただ、この格安スマホがちょっとした岐路に立っている。
MVNOが安く携帯電話をサービスできる仕組みを簡単に説明すると、こうだ。格安スマホを提供するMVNOは、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクといったアンテナを立てて携帯電話用に電波を出している移動体通信会社(MNO)と、大口顧客として通常よりも安く通信サービスを使えるよう契約する。いわば通信サービスを大量に買い付けて安く仕入れ、小口でたくさん販売することで、個人でも安い価格で回線を使えるようにしたのが格安スマホだ。格安スマホを利用するにはMNOとの契約を解除して、格安SIM(シム)と呼ばれるチップをスマートフォンに取り付ける。
IT専門の調査・コンサル会社であるMM総研(東京都港区)によると、最新調査の2019年9月末現在で携帯電話(第3世代と第4世代)契約数に占める、MVNOが提供した格安スマホの割合は7.8%だ。12~13台に1台は格安スマホというところまで普及した。回線数で数えると1405万回線で、1年前の18年9月末に比べると16.8%増加した。高い伸び率のように見えるが、年間で2割超も伸びていた昨年までと比べると、伸び悩み傾向だ。背景には回線を持つ通信会社の巻き返しがあるのだという。
NTTドコモは昨年6月に、端末料金と通信料金を分離する新料金プランを発表した。通信料金のみに絞ると、従来の料金体系に比べて大幅な値下げになった。続いてKDDIとソフトバンクも新たな料金プランを発表。これが格安スマホへの流出を阻止することになった。スマホで動画を見る人が増えていることもあり、もとより自前で回線を持っていないMVNOは混雑している時間帯に通信が遅くなりやすい、といった悪評が出がちな面がある。大手の新料金には、多少高くても格安スマホに移らなくてもいいか、といった値ごろ感が発生した可能性が高い。
さらに楽天傘下の楽天モバイルによるMNOへの参入も、かく乱要因になっている。実はMVNO契約数ベースで見てMVNO最大手は楽天モバイル。1405万回線のうち、楽天モバイルは16.2%のシェアを握る(MM総研調べ、19年9月末現在)。楽天モバイルは自前で回線を持ち、携帯電話用に電波を出し始めている。第4の携帯電話会社として全国でサービスを展開する計画だが、一方でMVNOの事業を維持するのか、それとも楽天モバイルの自社回線に誘導するのかといった点は明らかにしていない。最大手の動静は業界に影響するとみられているが、見通しが立ちにくいのが現状だ。
楽天の三木谷浩史会長兼社長は、かねて通信会社(MNO)としての本格的なサービス開始を4月と明言しているが、その際に格安スマホとはどう戦うのだろうか。一方で、以前はNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクと大手の寡(か)占状態だった携帯電話業界に格安スマホが風穴を開け、大手に値下げを促したという面もある。
菅義偉官房長官が携帯電話の値下げについてたびたび言及するなど、高すぎるスマホ代・通信料金が個人消費を抑圧しているとの見方もある。それでもIoT(センサーや道具をネット接続した常時情報取得・監視・制御)向けを中心にMVNOは契約数を伸ばすとの予想は多いが、4月以降の楽天の出方次第では、政府の通信に関する政策も改めて問われる可能性が残る。
(経済ジャーナリスト・山本 学)