年金生活のおばあさんが「困った」…自宅に居着いた野良猫、高額な避妊手術に頭を悩ませる
兵庫・宝塚市内で年金生活をしているおばあさんと、目がクリクリのかわいいメス猫の話です。自宅の庭に居着いた野良猫を健気に世話をしていたおばあさん。毎年のように出産シーズンの春先になると悩んでいたそう。そこで「地域猫活動」を提案してみました。
2019年のある日、知り合いを通じて野良猫の相談があった。宝塚市のある地域は野良猫が多く、毎年春先に子猫が産まれ、カラスに食べられたり、道路で車にひかれて死んでいるという。どうしたらいいのかと相談され、現場の確認へ向かった。
到着後、現場は想像とは違い、猫が見当たらない。やっと1匹現れ、家の駐車場に入っていくところを見かけた。早速この家で聞き取り調査を実施した。
おばあさんが出てきてくださり、猫のことを伺った。すると偶然、この家にも猫が居ついているという。庭を見ると4~5匹の猫がいる。話を聞くと、この家には数年前から庭に野良猫が来るようになったという。
おばあさんはもともと犬を飼っており、猫は好きではなかったが、1匹の猫が家の庭にやってきてから状況が変わっていった。次の日も現れ、ご飯をねだってくる。そこから餌を与えるようになると、気付けば毎日庭に現われた。しばらくすると「この猫が子供を産んだらどうなるんだろう?」とふと思ったそうだ。
というのも、おばあさんもこれまで近所で子猫がカラスに襲われたり、交通事故の被害に遇う場面を見てきたからだ。そこで、このような悲劇が起こらないようにと、その猫を捕獲して不妊手術を施し、これまで通りに外猫としてご飯を与えていた。
だが、そんな日々もつかの間、別の猫が庭へ現れるようになった。しかも子猫を4匹連れていた。今度は親猫と子猫、それに手術した猫1匹の計6匹が庭に居ついたのだ。ご飯を与えながら「こんなに増えて、今後はどうしたらいいの?」と焦りが出てきた。これ以上猫が増えないようにと考え、やっと1匹の不妊手術をしたものの、新たに加わった猫たちを手術しないとまた増える。
「そうしないと、また子猫たちがカラスや交通事故の被害に遭ってしまう…でも」
毎年春の出産シーズンになると悲痛な思いを抱え、憂うつになった。子猫の悲惨な結末を思うと、この産まれては死んでいく”負のサイクル”を止めるためには一層のこと「動物愛護センターへ連れて行くべきでは?」とまで思案した。殺処分があると知りながらも愛護センターが何度も頭をよぎったという。そこまで追い詰められていたのだ。
メス猫の不妊手術は病院によって異なるが、2万円~2万5000円ほど費用がかかる。おばあさんは1匹目の猫の避妊手術をした際に高額な費用に驚き、年金生活の身であと5匹も実費でできないと頭を悩ませていた。そこで、私はきちんと猫たちを管理して「地域猫活動をしないか」と投げかけた。
地方公共団体には、飼い主のいない猫の不妊・去勢手術費用助成金が出る地域がある。宝塚市にもこの制度があり、この制度を使うと通常よりも安く手術を施すことができる。一般的によく言われている「地域猫活動」である。この助成金を申請し、ご飯を与えるだけではなく、トイレの設置や清掃を行い、地域の猫として管理することを勧めた。おばあさんは理解してくださり、残りの5匹も手術を完了。地域猫として管理することにした。
「これでやっと安心して眠れる」。目に涙を溜めて語っていたのが印象的だった。
そのとき、私たちが活動している保護シェルターに空きができていた。子猫を確認すると、すでに産まれて半年以上経過しており、1匹以外は全く懐いていなかった。懐いている子猫を保護し、それ以外は地域猫として家の庭に戻した。
保護した猫は目がクリクリのかわいいメス猫で、おばあさんは「モモちゃん」と名付けていた。SNSで里親を募集すると、モモちゃんの動画は再生回数が1万5000回とふだんの倍以上となった。優しいご家族が里親になりたいと声をかけてくださり、モモちゃんは今も幸せに暮らしている。
今回のおばあさんは、助成金制度はもちろん、地域猫活動を知らなかったケース。このように飼い主のいない猫(野良猫)で困っている方には、近くの地方公共団体や愛護団体に相談していただくことをお勧めします。管理することで、発情期の鳴き声や糞尿被害など人への環境面も改善され、猫も生殖器の病気や予防、喧嘩が減りストレスも軽減される。人にも猫にもメリットがあり、現代社会で人と猫が共生していくには必要な制度ではないでしょうか。
(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)
▼地域猫とは 特定の飼い主はいないが、地域の合意の下で保護・管理されている猫。管理の根幹は「TNR活動」。TはTrap(捕獲)、NはNeuter(不妊・去勢手術)、RはReturn(元の場所に戻す)。手術済みの猫は、耳にVの字の切り込みを入れる。サクラの花びらの形にも似ているため、「さくらねこ」とも呼ばれる。