妻の一言で人生が変わった! 脱サラして「本屋をしよう」と大阪で小さな古書店を開業
大阪の下町、天神橋筋商店街。買い物客が賑わい生活感溢れる街に、一見何の変哲もないビルがある。少し中に入り階段を探し2階に上がると、隠れ家のような古書店がある。中に入ってみると、世界に関する紀行や歴史に関する本やエッセイがぎっしりと詰められている。「ヨーロッパ」「台湾」などとラベリングされた棚を一巡するだけで、世界旅行をしている気分へと誘われる。
その名も、『フォルモサ書院』だ。「世界を旅する書店」という壮大なコンセプトの裏腹に、部屋の広さは7帖しかない。しかしコンパクトな部屋に敷き詰められた本の数々による密度は高い。
中でも多く販売しているのは、台湾に関連する書籍や雑貨。昨今で人気の台湾旅行をさらに推すかのように、ガイドブックも置いている。思わず長居してしまいたくなる柔和な空気が醸し出されているのは、「好きなこと」を仕事にした店主の永井一広さんのオーラと合致しているからだろうか。
永井さんがこの店をオープンしたのは、昨年10月。以前は、会社に勤めるサラリーマンだった。「組織にいるといろんなことがありますよね。『このまま定年を迎えてもよいのか』と自問自答し、ストレスを抱える日々だったんです」。
あるとき妻から「会社を辞めて好きなことをしたら」とアドバイスを受け、「本が好きだし、本屋をしよう」と思いついたという。
本だけでなく、旅行も好きな永井さん。「飛行機に3時間以上乗ったことがない」「船で海外に行ったことがある」などと旅の方法は少し変わっている。旅行先として、中国や台湾を好んでいるそうだ。「少しだけ言葉が話せるため、そのエリアを選んでしまうんです。一度行くと、魅力に気づいて何度も足を運んでしまう」
そんな旅好きな思いが裏付けられ、店のコンセプトが明確になった。台湾の本に特化しているのも、「妻の祖国であり、僕自身も大好きな国。魅力を伝えたかったからです」。
しかし「好きなこと」を仕事にするとはいえ、楽しいことばかりではない。「とにかく仕入れが大変。オープン前は何が売れるのか分からず、台湾でさまよいながら、自分好みの雑貨を買ったりしていました」。
それに加え、店の場所も少々分かりづらい。しかし工夫上手な永井さんは、「日曜日は、このビルで営業しているのがうちだけなんです。だから1階にたくさん本を並べると、立ち寄ってくださる方も多い」と苦労すら楽しむ様子がうかがえる。
今では、コアな台湾ファンがわざわざ足を運んでくることもあるという。古書街に集う文化人や研究者が「この店なら」と多く本を売ってくれることも増えてきた。「最近ではブラジル関係の本がたくさん入荷しました。世界各国の専門家が、うちに集まってほしい」と展望を語る。
「ここは、人とのコミュニケーションが生まれる場所」と店の良さを語る永井さん。
「狭い空間だからこそ人との距離が近く、会話が生まれます。本好きにはおしゃべりが多いんです」
永井さんが1つ悔やんでいるのは、「店にコーヒースペースを置けなかったこと」だという。「もし店を移転することがあれば、次は必ず数席設置しようと決めているんです。コーヒーを片手に本について語り合いたい。ゆったりとした気分で本を選んでほしいんです」
この店の魅力は、本と旅を愛する永井さんの朗らかな人柄に裏付けられているのかもしれない。
(まいどなニュース特約・桑田 萌)
■フォルモサ書院:https://formosa8.webnode.jp
■1月27日~2月10日は台湾へ買い付けのため、休業