新型肺炎リスク…割高な米国株、調整の口火に 下げ幅によっては日経平均2万円に下落も

 新型コロナウイルスによる肺炎の広がりをきっかけに、世界の金融市場で相場の変動リスクを回避する動きが広がっている。1月31日の米株式市場では、ダウ工業株30種平均は600ドル安と記録的な下げ幅になった。1月17日の過去最高値からは約4%下落した計算だが、これをきっかけに足元の割高感が解消されるとなると、さらに下落する展開がありうる。米国株につれて上昇していた日本株を見ても日経平均株価が当面、下値を探る動きになりやすい。

 かねて米株式相場の割高感は指摘されてきた。米株式相場の昨年1年間を振り返ると、資産運用の目安として多く使われている株価指数「S&P500種株価指数」は約29%上昇した。しかし、米国の上場会社がそれに見合った利益を稼ぎ出したかといえば、答えはノーだというのは以前にも指摘した。米国では足元で2019年10~12月期の決算発表が本格化しているが、S&P500に採用されている500社の利益を合計すると、昨年は年間で減益になったと見込まれる。昨年の米株式相場は収益に見合わない、高い水準まで上昇した可能性があるというわけだ。

 それでも株価は先行きの利益を取り込んで反映することもあるので、先行きの利益が増えて割高感が解消される期待が持てるなら、高い株価が維持できただろう。しかし、新型肺炎で中国を中心に人の動きが止められた。中国政府は春節の連休を2月2日まで延ばしたが、さらに上海市や重慶市など主要な都市の多くで2月9日まで休業を延長する指示が出ている。患者数が最も多い武漢を含む湖北省では13日まで休暇を延長することになった。これから「世界の工場」で物の動きが止まる。そうなると金(カネ)の動きも付いて来ないだろう。

 国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事の発言も伝わった。報道によると「生産や供給網(サプライチェーン)の混乱を引き起こし、旅行ビジネスにも影響を与えている」と、まさに中国で人と物の動きが止まったことを指摘。そこで「世界景気に短期的な減速をもたらす可能性がある」と懸念を表明した。IMFは2020年の世界経済の成長率が3.3%になるとの予想を示していたが、これを早々と下方修正する可能性が出てきた。IMFは新型肺炎の経済への影響を分析し、2月中にも公表するという。

 そうすると、まずは米株式相場の割高感がどこまで下落すれば解消されるのだろうか。単純に、2019年1年間の上げ幅がすべてかき消されると考えると、18年の平均的な水準である2万5000ドルの節目を少し割り込むぐらいまでの下げは想定しておく必要がありそうだ。ただ世界景気が悪化して2020年も企業収益が減益という予想を立てるなら、相場はさらに下押すことになるだろう。当然、日本株も影響を受けることになる。米株式相場の下げ幅が大きくなった場合、日経平均は2万円の節目がちらついても不思議ではない。

 やはりコロナウイルスで拡散する重症急性呼吸器症候群(SARS=サーズ)に関心が集まった2003年は、半年程度で感染の拡大が収まり、世界経済の成長率は0.1%程度抑えられた。今回の新型肺炎は、SARSと同程度との見方が定着しつつあるようだが、なお予断は許さない。しかも当時は中国経済が世界に占める割合が4%だった。中国が世界第2位の18%を占めるまでになった現在、世界経済を下押しする圧力は当時よりも高まったといえる。米株式相場の割高感が解消される以上に売られる展開を予想するなら、その分、日本株の下値も深くなるといえるだろう。

(経済ジャーナリスト・山本 学)

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