子猫の病気を治すため…大学生が治療費のために卒業旅行も諦めて病院通い
■ピンク色の皮膚が見えていた
愛媛県松山市で大学生活を送っていた山内さんが、ツイッターで拡散された薄グレーの子猫の画像を見たのは2017年の夏のこと。同じ大学に通う女性が、「子猫を保護したが寮では飼えない」と里親を探していた。
母親が猫の保護活動をしていて、自身も猫が大好きだという山内さん。「母のように猫を助けたい」という思いから、猫を一旦引き取ろうと考えた。そこで、子猫を保護した女性とツイッターで直接やり取りをし、離乳するまで自分が面倒を見ること、その後は母親に協力してもらい譲渡会で里親を探す旨を提案。翌日には、子猫を迎えに行った。「画像越しに、猫風邪をひいている様子がわかったので、迎えに行ったその足で動物病院に行こうと思っていました」
ところが、保護主の自宅に行くと、もう1匹子猫がいる。別の場所で保護したというその白い子猫は、体毛が薄く、体のいたるところの毛が禿げていた。中でも、目、鼻、口のまわりは、目ヤニと鼻水でぐっしょりと濡れ、ピンク色の地肌が露わになるほど毛が禿げてしまっていた。実家でも猫を多頭飼いしていて、猫には慣れていた山内さんだが、こんな状態の猫を育てたことはない。治療費も含め、自分の力で育てていけるのかと不安になった。でも、見捨てることはできなかった。
「私が助ける!」そう決断した山内さんは、その場で2匹を引き取って動物病院へ直行。薄グレーの子猫は生後約2週間、白い子猫は生後約3週間だとわかった。ノミ駆除薬を塗布し、猫風邪の注射を打ってその日は帰宅。白い子猫の禿げは、目ヤニや鼻水によるかぶれが原因かもしれないということで、一旦様子を見ることになった。離乳が遅れて、ミルクばかり飲みたがる薄グレーの子猫は「ミル」、白い子猫は、ミルと姉妹のように育ってほしいという願いを込めて「メル」と名付けた。
■飼い主まで皮膚科通い
その後の検査で、メルの禿げは真菌というカビが原因だと判明。真菌は、猫にはもちろん人間にもうつる菌で、しつこいのが特徴だ。ミルにうつらないようにと細心の注意を払ったものの、やはり菌はミルにも感染。飲み薬と塗り薬を絶えずもらいに行き、菌の繁殖を抑えるために、毎日家の中をキレイに拭きあげた。それでも、なかなか菌はいなくならない。ついには山内さんにも感染し、額や腕、足などに痒みが…。子猫も飼い主も病院通いの日々が続いた。
毎月かかる治療費が、学生の財布を締め付ける。アルバイトはしていたが、もちろんそれだけでは生活が苦しい。山内さんは結局、卒業旅行も、友達とのたくさんのイベントも諦め、それらの費用を治療費にあてた。「それでもいいから治してあげたいと思うほど、あの子たちがかわいかったんです」。
そして約半年後、長かった真菌との戦いが終わる。2匹は元気に成長したが、山内さんは結局、どちらの猫も譲渡会には出さなかった。「愛着が湧いてしまって、もう手放せませんでした」
その後、山内さんは、香川県高松市で就職。2匹と一緒に暮らすために、ペット可の物件を一生懸命探した。ミルの毛色は成長とともに薄いグレーからしま柄に変化。初めて会った人間をまずは威嚇するが、その後結局甘えてしまうというツンデレ娘に成長した。一方のメルは、社交的で猫じゃらしが大好きな愛され娘。猫じゃらしを投げると、咥えて山内さんの前まで持ってくるという。「ミルはメル以外の猫を受け付けないですし、メルはミルがとにかく好きですぐに寄っていく。たまに喧嘩もしていますが、気づけば一緒に寝ていますね」
就職して丸2年を迎える山内さん。慣れない場所での一人暮らしを寂しく感じるときもあるが、家で2匹が待っていると思うとがんばれるという。積み重なった治療費と諦めた卒業旅行。でも、山内さんは笑ってこう話す。「最初の半年は確かに大変でしたが、2匹を引き取ったことはまったく後悔していません。だって、ミルとメルは、一緒にいるのが本当に楽しそうですから」