捨て猫との出会い→10カ月後に保護猫カフェ開店 青年に経営する塾の譲渡まで決断させた子猫
かつて犬派だった阪本一郎さん(35)が営む会員制猫スペース「きぶん屋」は宝塚市の阪急今津線・仁川駅の駅前にある。7年前に子猫を拾ったことをきっかけに当時経営していた学生塾をたたみ、保護猫カフェをオープン。SNSでもほんわかな情報を発信しており、フォロワー数は15万人に上る。
2013年夏、仕事帰りの阪本さんは、友人と宝塚市内の公園に立ち寄った。ベンチで話をしていると、後ろの方からガサガサと音がした。立ち上がり茂みの中をのぞくと、ダンボールに入った子猫が2匹いるではないか。
阪本さんは猫が遺棄されている光景を初めて目にし「こんなこと、ホンマにあんの!」と怒りを覚えたという。その後、冷静になり「この子たちはどうなるんやろ?」と心配に。公園は交通量が多い幹線道路に面しており、このまま放っておくと危険だった。猫の飼育経験は全くなかったが、連れて帰ることを決心。自転車の荷台に子猫が入ったダンボールを積み、猫が飛び出ないよう慎重に自宅へ向かった。
実家暮らしのため、急に子猫を連れて帰ると家族が嫌がるかもしれないと察し、こっそりと自分の部屋へ連れて入った。しかし翌朝、前夜の苦労も虚しく子猫を連れて帰ったことが母親にバレてしまった。
「飼ってみ~ひん?(飼ってみない?)」
その言葉に一瞬、耳を疑った。怒られると思っていたが、母親は猫を飼うことに大賛成。2匹の子猫は家族に迎えられた。少し前に長年飼っていた犬が亡くなり、動物がいない生活に寂しさを覚えていたのかもしれない。
2匹のうち男の子はジジ、女の子はタマと名付けられた。偶然出合ったジジとタマとの生活がはじまり、阪本さんは猫に関する情報を色々と調べた。すると動物の「殺処分」を知ることになった。
「なぜ、何も悪いことをしていないのに理不尽に殺されていくのか?」
強い衝撃を受けた阪本さんは次の瞬間、殺処分がなくなる社会を目指し、保護猫カフェを始めることを決意する。
当時、阪本さんは宝塚市内で学生塾を経営していた。学歴と世帯収入とが比例する実態を憂慮。できるだけ親の収入に関係がなく「勉強したい子が気軽に通える塾」をモットーに授業料を設定していた。
こういった塾は珍しく、たくさんの生徒が通ってくれていたが、猫を保護し「殺処分」のことを知ったことで「命に代えられるものはない」と塾を譲渡。子猫を保護してからわずか10カ月後の2013年6月にまず保護猫カフェ「きぶん屋」をオープンした。当時、保護猫カフェはいまほど認知されておらず、経営は軌道に乗った。
だが、安心したも束の間、2カ月後に保護猫全頭が白癬(はくせん)に感染し、1カ月半の休業を余儀なくされた。猫の白癬症は真菌の一種「皮膚糸状菌」が皮膚に広がった状態で脱毛などを引き起こし、人にも感染する。いきなり閉店の危機に追い込まれたが、何とか再開することができたという。
その後は人慣れしていない保護猫を多く受け入れたことで、なかなか譲渡が決まらない時期が続き、頭を抱えたこともあった。しかし、そんな苦しいときは猫カフェでつながったお客さんのサポートのお陰で経営を続けることができた。
18年12月には月額会員制猫スペース「きぶん屋」にリニューアルし、いまに至る。最近では毎週土曜日の13~20時を通常の猫カフェとして営業し、月末の日曜日には譲渡会を開催。阪本さんは、これまで200匹以上の保護猫を幸せな家族の元へ送り出している。
その傍ら社会貢献活動にも熱心。「人にも動物にも優しい社会づくり」を目指し、動物愛護団体や中学校など全国各地でトークイベントを開催しており、LINEブログ(@ichironeko)でも情報を発信。YouTube「はぴねこチャンネル」では3度の飯よりにゃんこが大好きな萌えキャラ「きぶんやあおい」として情報を届けており、近々再開予定だ。
阪本さんに今後の活動を尋ねると「世の中にはたくさんの問題が山積みで、その問題は日々のみなさんの選択の積み重ねでできています」と真剣そのものだった。
「たとえ殺処分しなくてもよい世の中になっても、社会的弱者と呼ばれる人が苦しんでいては意味がない。誰もが当たり前に幸せになれる世の中にしていくために、気付いた人から選択を変えていこうと呼び掛けたい」
そんな阪本さん、ネットショップでは無添加のペットフードや分かち合いを意味するフェアトレード商品など、人にも動物にも優しい商品を販売している。いまや、どっぷりと猫派だ。(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)
詳細は→https://kenkoshukan.stores.jp/